第104話 偽たくあん聖女18
「そんなことしてもらっちゃ困るな」
目の前を閃光が走って、私と、そしてラズロフ様の身体にまとわりついていた植物が真っ二つに裂かれ、私は瞬時に解放されることとなった。
「クロードさん……!!」
振り返れば私の方へと手のひらを向けるクロードさんがにっこりと笑った。
「大丈夫? リゼ。あとついでに兄さん」
「貴殿の兄になった覚えはない。が、助かった。礼を言う」
不服そうにしながらも礼を述べるラズロフ様に肩をすくめて、クロードさんは私のところまで歩み寄ると、無事を確かめるように私の手を取った。
「うん。怪我はないみたいだね。よかった」
「ありがとうございます、クロードさん。助かりました」
アメリアのスキルが【育成】だと聞いて、安全で慈しみのあるスキルであると油断してしまっていた。
使い方一つで人を傷つけるスキルにもなってしまうのね。
「さて、俺のリゼさん縛り上げるなんていい度胸してるね」
底冷えのする声を発しながらアメリアを鋭く睨みつけるクロードさんにアメリアがふん、と馬鹿にしたように笑みを浮かべる。
「お姉様にたぶらかされた哀れな第二王子様。まんまとたぶらかされて……一体どんな誘惑をしたのかしら、お姉様は」
「っ、誘惑なんて──」
「むしろ誘惑してくれるものならして欲しいくらいなんだけどどうしたらいい!?」
私の反論に被せるようにクロードさんが声をあげる。
空気読んでクロードさんーーーーっ!!
「あーでも、リゼに誘惑なんてされちゃったら数日は離してあげられないだろうからなぁ……」
味方の方から身の危険を感じるのは気のせいだろうか……。
「なんなのよあんた……おかしいんじゃない!? もういいわ!! あんたも一緒に──」
シュンッ──「っ!?」
アメリアが私たちに手のひらを向けスキルを使おうとした瞬間、目の前を光の縄がまるで蛇のようにうねりながら通り過ぎ、一瞬にしてアメリアの身体を両手ごと拘束したのだ。
そして同時に間合いを詰め、光の剣を出現させると、クロードさんはアメリアの首元にそれを突きつけた。
すごい……早い……!!
「させないよ? 俺のリゼを害するものは、たとえ彼女の双子の妹であっても俺は容赦しない。この剣でこのまま貫いてもいいんだけれど……、君の預かりは今のところベジタル王国だからね。ここはラズロフ殿に許可を得なければ……」
目が殺気立ってますよクロードさん……!!
「はぁ……とりあえず殺すな。あちらで罪を償わせる。足も拘束させてもらうぞ」
そう言ってラズロフ様は、アメリアの両足を氷の足枷で繋いだ。
「!! こんなことして、お父様とお母様が黙ってないわよ!!」
尚も吠えるアメリアに、クロードさんはピッタリと切先を首元にくっつける。
「良い歳して親を頼りにしかできないなんて可哀想な子だね。そんなに死に急ぎたい?」
いつものクロードさんじゃない!!
「俺は君が誰かを害そうとしようが興味はない。だけど、俺のリゼの大切なスキルを騙って誰かを傷つけるのは許せない。リゼはこのスキルでたくさんの人を幸せにしてきたんだ。それに泥を塗るような真似……俺は許さないからね」
「クロードさん……」
追放されてからずっと側で見守ってきてくれたクロードさん。
うまくいかない時も、いつも私を励まして、私を信じてくれた。
だから私は、このたくあん錬成スキルを誇れるようになったんだ──。
あらためて自分の中での彼の大きさに、心がキュッと締め付けられた。
「っ!! わ、わかったわよ大人しくするからそれを下ろして。こんなにグルグル巻きにされて足枷までされたら観念するしかないじゃない……。お姉様の評判を落としてどん底に突き落としてやりたかったのに……」
憎々しげに顔を歪めたアメリアが言うと、クロードさんは光の縄はそのままに、突きつけた光の剣を消し去った。
その時だった。
アメリアの口元が不気味なほどに歪んだ弧を描いたのは──。
「!! クロードさん!!」
「死ねぇぇぇぇええええ!!!!」
アメリアの足元から鋭く尖った蔦が伸び始めクロードさんを狙う──!!
だめ……!!
クロードさん、間合いが近すぎる──!!
「くっ……!!」
彼の喉元まで鋭く尖った蔦が迫る──が……。
「【たくあん錬成】!!」
ズッドォォォォォン!!
無我夢中だった。
だからだろうか。
力加減ができなかったのは。
錬成して出てきたたくあんは、私が今まで作った中で最大の、そう、全長10メートルはあろうかと言うほどの巨大たくあんだった──。
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