第100話 偽たくあん聖女14
「お兄さんたち、たくあん聖女を探してるのかい? 俺、今日会ったぞ──」
「!? 本当か!?」
「本当ですか!?」
突然飛び込んできた最新情報に、私とラズロフ様はキャラ設定も忘れ、情報提供をしてくれた男性に詰め寄る。
「お、おう」
「それはどこで!?」
「えっと、今朝早く【旧植物棟】の近くのベンチで……」
【旧植物棟】──!!
やっぱりあそこを拠点にしてるんだ……!!
私はラズロフ様と顔を見合わせると頷き合い、忘れかけていたキャラを被り直した。
「兄さん……!! もしかしたらそこに行けばたくあん聖女様に会えるかもしれないわね……!!」
「あぁ!! 母さんを助けてもらえるかもしれないぞリィ!!」
刹那、ラズロフ様は私の手を引きその腕の中へと引き入れた。
「ちょ!?」
バキッ。
近くで何かが折れる音が響く。
あぁ、絶対クロードさんだ。
でもこれはラズロフ様じゃない。
兄さんだ。
よってこれは兄妹の抱擁だ。
けど──。
「兄さん苦しいわ」
「あ? うあぁっ!? す、すまない。いや、ごめん、リィ」
私がラズロフ様の胸を軽く押し返せば、すぐに我にかえったラズロフ様が私を解放した。
「いいえ、いいのよ。手がかりが見つかって嬉しい気持ちはわかるもの」
にっこりと笑って見上げると、ひどく歪な笑顔を返すラズロフ様、いや、兄さん。
「あ、でも、あなたは無事だったんですか? 皆さん何やらひどい目にあったとおっしゃってますけど……」
見たところお腹を壊している様子もなければ怪我を負っている様子もない。
「あぁ。俺は噂を聞いたことがあったから、すぐに逃げたんだよ。でもあの見事な綺麗なプラチナブロンドの髪、真っ白い衣装、間違い無いと思うぜ」
私も見事な綺麗なプラチナボブロンドの髪ですが何か!?
衣装ひとつで間違われてしまう私って一体……。
「おじさん、ありがとうございます!! 私たち、【旧植物棟】付近で待ってみようと思います!!」
「あぁ。あ、でも気をつけろよ? たくあん聖女ってのはおっかない人みたいだからさ。兄ちゃん、可愛い妹ちゃんを守ってやれよ!!」
「は、はい。もちろんです」
そう言ってラズロフ様──兄さんに手を引かれながら、私たちはその人混みから出て研究施設のある中央へと向かった。
「──兄さん、何かあったら俺のことも守ってね」
「兄さん、私も守ってくれるんですよね」
「誰が貴殿らの兄だ!!」
ナイスツッコミです、ラズロフ様。
偽たくあん聖女が見ている可能性があるので、中央施設の中に入ってからクロードさんとカデナ殿下と合流する。
すると私はクロードさんに手を引かれ、ぎゅっと力強く抱きしめられた。
「クロードさん!?」
「どこぞの兄さんが俺のリゼに抱きついたから消毒中」
「貴様……」
あぁ、さっきの……。
やっぱりあの音はクロードさんだったのね。
「それはそうと、やはり【旧植物棟】でしたね」
険しい顔をしてカデナ殿下が腕を組む。
「そうですね。ラズロフ殿とリゼが目立ってくれたおかげで、ノートンから来た兄妹が病の母親のためにたくあん聖女を探していて、【旧植物棟】付近で待っているっていう話は広まっただろうし、もしこれが偽たくあん聖女の耳に届けば、周りに人がいない状況を見計らってあちらから接触してくる可能性は高いでしょう」
確かに。
偽たくあん聖女もきっと自分の悪い話が無事広まっていることは理解しているだろう。
それによってたくさんの恨みを買っていることも。
本物のたくあん聖女の印象を悪くするための工作なんだろうけれども、そうなれば自分だって危うくなる。
周りに人がいるうちは接触してこない、か……。
いや、アメリアはそこまで考えるような子じゃない……!!
「多分、耳に届いたとともに接触してくると思います」
「え? いやいや、人目があるうちは……」
「あの子はそんなところまで気にするような子じゃない」
「!!」
あの子のことなら私が1番よく知っている。
良くも悪くも愛想があり、友人の婚約者とも必要以上に仲良くなったり好きになられたりすることの多かった彼女は、一部女生徒からは嫌煙されていた。
そんな女生徒からの見え見えの呼び出しに、あの子は「もしかして告白かしら!?」と嬉々として真正面から出向いてはまんまと罠にかかっては嫌がらせを受ける。
毎回私があの子を庇って大事には至らなかったのだけれど……。
脱走の際にはかなり頭を使ったようでも、それが長続きするとは考えづらい。
「ふむ……双子はどこか見えない部分で繋がっているともいいます。リゼリア殿とアメリア殿も、きっと……。このまま【旧植物棟】の側のベンチで張り込んでみるのも手かもしれません」
カデナ殿下がその細長い眼鏡をキュッと指で押し上げ言うと、クロードさんとラズロフ様もそれに頷いた。
「研究者がそう言うなら、やってみる価値はあるか。いくぞリィ」
そう言ってラズロフ様はすいっと私の前を通り過ぎて、中央研究所から出て行ってしまった。
「あ、ちょ、待ってください兄さーん!!」
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