第3話 旅は道連れ、たくあん令嬢とイケメンさん
「通りすがりのたくあん売りです!!」
「…………ん?」
綺麗な顔のままフリーズする男性。
あ、滑った。
「ゴホン。私はリゼ──、と申します。隣国フルティアへ行く途中に、倒れているあなたを見つけまして、供養を……あぁ、いえ、気を失っているだけのようでしたので、たくあんを近づけたら起きるかなぁと思って試してました。すみません」
私は公爵令嬢としてのきちんとした儀礼じみた挨拶ではなく、ただ丁寧に警戒心を抱かれないように注意しながら自己紹介と謝罪を述べた。
本名であるリゼリアではなく、愛称を名乗って。
「リ、ゼ……? まさか……本当に?」
あれ、この反応。
まさか私のことを知っているのだろうか?
いや、私にこんな美形の知り合いはいなかったはず。気のせいだろう。
「たくあんというのは、その独特な匂いを放つ黄色いもののこと?」
男性が私の手元を指さす。
「は、はい。そうです」
こんな美形男性を前に何てもの持ってるんだ私は。突然襲いくる羞恥心に、私はたくあんをそそくさと背に隠す。
「そうか……。先ほどは失礼した。助けてくれてありがとう。俺はクロード。隣国フルティアの人間だよ」
まさかの行き先の地元民!?
こんなところで地元民を拾うなんて、なんてついてるのかしら!!
「この国に何か美味しそうなものはないかな、と思って貿易のための調査に来たはいいけど、急いでいたからお金も持たずに来ちゃってね。仕事が忙しくてここに来る前から食事をしていなくて、フルティアに帰る前に遂にお腹が空いて倒れてしまったみたいだ。起こしてくれてありがとう。あのまま倒れていたら、魔物の餌にでもなっていたかもしれない。本当に助かったよ」
爽やかな良い笑顔を向けるクロードさん。いや、食事はきちんととりましょうよ。意識失うまでの空腹って……。
でも私もこの人が倒れていなければ、いつかは同じようにお腹が空きすぎて倒れていただろう。
こちらこそ助かりました。
ありがとう。
心の中で礼を言う。
「とりあえず野宿してから、朝になったらフルティアに渡ろうと思うんだけど──、リゼさんはどうする? 俺とここで野宿して、明日一緒に向こうに行く?」
婚約者でもない男性と二人っきりで一夜を明かすなんて、常識としてはありえない。今はこんなでも、私は一応高位貴族の令嬢として育ってきた。抵抗がないといえば嘘になる。
けれどここで一人になるのも心細いし、それこそ魔物に襲われてあの世行きだ。
私はこれまでの公爵令嬢としての常識一切をかなぐり捨てると、クロードさんを真っ直ぐに見上げてから「ご一緒させてください!!」と答え、頭を下げた。
旅は道連れ、とよく言うものね。
こうして私は、たくあんがつないでくれた不思議なご縁で、先ほど拾ったイケメン、クロードさんと共にフルティアを目指すことになった。
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