また目蓋開く時

皿日八目

死んだらね

 死んだらね、一階から母親が上ってきて起こしてくれるんだ。きっと16歳の誕生日で、王様に謁見しに行くんだ。


 または、見たこともない仲間たちと焚き火を囲んでいて、知りもしない悪を倒すために立ち上がるところかもしれない。ま、それも夢なんだろうけど。ベッドから転がり落ちれば、妹が心配してくれるはずさ。


 あるいは、禁断の森の中、木でできた家で朝寝坊をしていて、遣わされた妖精に叩き起こされるんだ。


 もしくは、百年も眠っていて、どこからともなく聞こえてくる懐かしい声で目が醒めるのかも。


 引っ越し中のトラックで、意地悪な親戚の家の階段下の部屋で、アメリカの片田舎に落ちた隕石の音で、理由もわからない罪で囚われた牢屋で、あるいは引っ立てられていく荷車の上で、雪山に作られた村へ行く途中で、見たこともない洞窟の中で、両親のいない姉と二人だけの家の中で、ずっとキャベツのスープが夕飯のような貧しい家で、釣りの途中で、一度も死者の出なかった未開の村で、あかがね色の表紙の本を持って走る途中で、バイパス建設のためにぶっ壊される直前の地球で、次の授業へ向かう途中で、犬と一緒の狭い小屋で、泉のほとりで、船の上で、腕の中で、絨毯で、新幹線で、車の中で、魔法陣の上で、畳で、馬小屋で、道端で、病院で、フラスコの中で、茶の間で、銃口の前で、ボロアパートで、城で、豪邸で、膝の上で、外国で、お祭りで、田舎で、都会で、タクシーで、VRで、天国で、檻の中で、山の上で、防空壕で、子宮の中で、試験管の中で、手術台で、宇宙で、洋館で、死刑台の上で、平原で、ホテルで、お座敷で、空で、ダンジョンで、水の中で、飛行機で、卵の中で、四畳半で、カプセルの中で、蓮の上で、地獄で、シェルターで、墓場で、結婚式で、砂漠で、大学で、葬式で、森の中で、子供部屋で、脇の下で、死体の下で、クリスマスの夜に、ハロウィンに、授業中に、正月に、落ちる途中に、嵐の夜に、七夕に、目が醒めるのかもしれない。


 実は既に何度も死んでいて、これも何十周目でしたなんて、そんなことだけはあってはならない。


 死んだとたん記憶を失って生まれ変わるなんて、絶対に信じない。


 本当に二周目だっていうのなら、このポンコツぶりはどうしたのか。


 もうちょっとなんかあってもいいんじゃないか。


 さっぱりアドバンテージを感じないぞ。

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