第48話 紹介
アントニアがルドヴィカにゴットフリートを紹介する機会は思いの他、早く来た。
その日、アントニアはルドヴィカの到着前にゴットフリートとこの件について話したくて早めに来てもらった。ただ、アントニアは離婚協議書の取り決めを真面目に守り、この日もルドヴィカが実の娘でないことをゴットフリートに告白するつもりはない。
アントニアは、いつも通り食堂から借りてきた椅子を質素な自室でゴットフリートに勧めた。
プロポーズ以来、婚約関係にある2人だが、貞淑に厳しいお国柄と修道院の事を思えば、本来ならゴットフリートとアントニアは密室に2人きりにならないようにしする方がよい。だが今回は繊細な話なので、ゴットフリートが唯一連れてきた御者には馬車で待っていてもらい、その代わりにアントニアの部屋の扉を半開きにした。
アントニアはいつもより緊張した面持ちでゴットフリートに話を切り出した。その様子を見てゴットフリートはまさかアントニアが気持ちを変えたのではないかと不安になった。
「お手紙でお知らせした通り、今日、娘のルドヴィカを紹介いたします。娘は私の再婚に賛成してくれましたが、貴方をまだ存じません。貴方はとても優しくて素敵な方ですので、嫌われるはずはありません。でも、万一……今更こんな事を申し上げて酷いとは承知しているのですが……万一、娘が貴方を受け入れられないのなら、婚約を解消していただきたいのです。娘は辺境伯家の唯一の嫡出子ですから一緒に住むことは叶いませんが、娘の受け入れない再婚はしたくないのです。本来、プロポーズをお受けする前に言うべきことでしたのに……あの時は娘と連絡手段がありませんでした。本当に申し訳ありません……ただ、私が貴方をお慕いしていることだけは信じていただきたいのです……」
アントニアの謝罪の言葉は涙声で消え入りそうだった。自分がきちんとしていなかったためにゴットフリートを傷つけてしまったと思い、彼女は彼を直視できなかった。
「顔を上げて下さい。万一、そんな事になったら……とても……すごく悲しいですが、娘さんの意思のほうが大事です。それよりも涙を拭って笑顔で娘さんを迎えてあげて下さい。自分のために貴女の再婚話がなくなったなんて思わせたくないでしょう?」
アントニアは、ゴットフリートの言葉にはっとした。ルドヴィカにトラウマを植え付けたいはずはない。こんな時にもルドヴィカに気を遣ってくれるゴットフリートを慕う気持ちが溢れ出そうになったが、ルドヴィカの反応を見るまではそんな訳にいかないとアントニアは気を引き締めた。
そうこうしているうちにルドヴィカと約束している時間になった。アントニアはゴットフリートと聖グィネヴィア修道院の門前まで赴いてルドヴィカの馬車を待った。
しばらくするとルドヴィカの馬車が近づいてきたのが見えた。馬車が停まり、扉が開くと、ルドヴィカは飛び出そうとした。でも最初の再会でアントニアに窘められたことを思い出したようで、飛び出しそうな身体の勢いを止め、差し出されたアントニアの手を取って馬車のステップの上を落ち着いて降りた。
「ルドヴィカ、いらっしゃい。この方が私の再婚したいと思っている、ゴットフリート・フォン・ノスティツ子爵閣下よ」
「こんにちは、ルドヴィカ嬢。今日は、お母様との結婚を君に許して欲しいんだ。でも大事な話だから、中でゆっくりお話しよう」
「ええ、よくってよ」
ルドヴィカは大の大人に許しを乞われて誇らしく、いっぱしのレディになったつもりで答えた。
アントニアとゴットフリートはルドヴィカを連れてアントニアの部屋へ戻り、ルドヴィカの侍女と護衛は居住棟の共同居室で待機することになった。
------
長くなってしまったので、2話に分けます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます