第49話 結婚の許し
ゴットフリートはアントニアの自室に到着すると、気がせっていてルドヴィカに自己紹介するのも忘れ、すぐにアントニアとの結婚の許しを願った。
「ルドヴィカ嬢、私は君のお母様が大好きで結婚したいのだけど、いいだろうか?」
「おじさんは、何をしてる人?」
「ああ、ごめんなさい! 結婚の許しを乞うのに自己紹介すらしていなかったね! 私は子爵だけど、領地はなくて、王宮で文官として働いて生活しています」
「領地ないの? じゃあ、おじさんは貧乏なんだね?」
「ルドヴィカ! なんてことを!」
「アントニア、いいんですよ、本当の事ですから。見栄を張って偽りの姿を見せたくはないんです」
ルドヴィカの歯に衣着せぬ言葉にアントニアは顔色を青くしたが、ゴットフリートは落ち着いていた。
「確かに私は、君のおうちのような贅沢はできないよ。でも私には小さいけど家もあるし、王宮のお仕事で生活できるぐらいのお給料はもらえるし、両親の面倒は弟も協力してくれる」
「おじさんのパパとママも一緒に住んでいるの?」
「うん、そうだよ。私達のパパとママは……うーん、ちょっと困った人達なんだけど、それでも私達にとって親なんだ。彼らを見捨てられないよ。だから弟も助けてくれるんだ。でもアントニアと結婚できたら、私は彼女を当然優先するつもりだよ」
「どうしておじさんのパパとママは困った人達なの?」
「母はコーブルク公爵家のお嬢様だったから、贅沢な暮らしを忘れられなくてドレスや宝石が欲しいんだ。父は、ギャンブルとかお酒が大好きでお金をすぐ借りたがる。でも弟と協力してうちがお金を出せる以上の事をしないように見張ってるから大丈夫」
「ふーん、おじさんのパパとママは情けないんだね」
「ルドヴィカ!」
「いいんだよ。ちょっと手厳しいとは思うけどね、本当のことだし……でもうちの両親はこんなだけど、弟はすごく優秀で自慢の弟だよ」
「ふーん、おじさんは弟が大好きなの?」
「うん、弟はラルフって言うんだけどね、とても親切で賢いんだよ。アントニアさんに結婚のお願いをできるように随分と色々助けてくれたんだよ。彼は私達の母のお兄さんのコーブルク公爵の家に養子に入って結婚してる。去年、かわいい男の子が1人産まれたんだよ」
ゴットフリートがラルフの事を話している時、本当に嬉しそうで弟が大好きなのが見てとれた。
「ふーん、おじさんの事、だいたい分かったよ。それじゃあ、ママはおじさんと結婚したら貧乏でも幸せになれる?」
「もし結婚できるなら、一緒に幸せになるつもりだよ。私はアントニアをとても愛しているから、彼女と一緒に生きることができたら、とっても幸せだ。でも結婚できただけでも幸せだけど、その後も幸せでいられるようにずっと努力し続けるつもりだよ。――アントニアさんはどうかな?」
「え、ええ、わ、私もゴットフリートとけ、結婚できたらとても幸せです」
娘の前で愛の告白は恥ずかしかったが、ここで嘘を言う訳にはいかなかった。
恥ずかしさが落ち着くと、アントニアはルドヴィカがゴットフリートに遠慮して本音を言えないのではと心配になった。
「でもね、ルドヴィカの幸せも大事なの。――ゴットフリート、ちょっと侍女達の所へ行っていてくださいませんか? 娘と2人だけで話したいのです」
ゴットフリートは、躊躇なく同意してルドヴィカの侍女と護衛の待つ居室へ向かった。
「ルドヴィカ、ゴットフリートをどう思った? ちょっとしか話していないから分からないでしょうけど……もし好きになれそうもないと思ったなら、今すぐ言って。何回か会ってどんな人なのか見たいっていうなら、それでもいいのよ」
「でもそうしたら、ママは結婚を止めるとか、後にするとかするの?」
「そうね。でもママに悪いって思わなくていいのよ。ルドヴィカが嫌いな人とはママも結婚したくないから」
「でもママが好きになった人が悪い人な訳ないよ。おじさん、待ってるよ。早くおじさんの所に行こうよ」
「ルドヴィカ、ありがとう!」
アントニアの目からは涙が溢れ、ルドヴィカをぎゅっと抱きしめた。
「ママ、それよりおじさんが待ってるよ!」
「ええ、そうね。行きましょう」
ルドヴィカは共同居室への道筋も覚えていてアントニアの前を転がるように駆けて行った。
「駄目よ! ルドヴィカ、走っては駄目! 待ってちょうだい!」
ルドヴィカはアントニアの制止も聞かず、共同居室に飛び込んでいった。普段、あまり運動しないルドヴィカは息を切らせながら、トコトコとゴットフリートに近づいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……おじさん! ママと結婚していいよ!」
「本当に?! ありがとう!」
ゴットフリートは、ルドヴィカの許しを得られて胸がいっぱいになった。
その時、ルドヴィカを追ってアントニアが共同居室に到着した。ゴットフリートはすぐにアントニアに駆け寄って彼女の前に跪いた。
「アントニア! ルドヴィカ嬢の許しを得られたよ。結婚して下さい!」
「ええ、喜んで!」
ゴットフリートが唇をアントニアの右手の甲に落とすと、彼女は頬を赤く染めた。するとすぐにルドヴィカが『ママ!』と叫んで近づいて来てアントニアの左手を握った。アントニアの目からは涙が溢れ出てきたが、涙を拭う手は両方とも塞がっている。でもアントニアはそんな事にも構わず、うれし涙にむせんだ。
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