第15話 修道院の視察

 アントニアとペーターが修道院に着くと、院長と修道女が2人を出迎えた。


「すみません。村人達のお話を聞いていたら、長引いてしまって……」

「いえいえ、あの村に辺境伯家の代理の方が来たことはなかったでしょうから、無理もありません。さあ、お腹すかれたでしょう? 粗末な物で申し訳ありませんが、お召し上がり下さい」


 院長と修道女に案内され、アントニアとペーターは食堂に向かった。2人が食卓に着くと、全員に自家製のパンとここで収穫した根菜のスープが配られた。子供達は昼食を待ちかねていて、神へ祈りを捧げ終わるか終わらないか分からないうちに食事にがっつき始めた。それを見て修道院長は気まずそうに言い訳をした。


「食料がほとんど自給自足ですから、食べ盛りの子供達に普段、沢山食べさせてあげられなくて……お恥ずかしい限りです」


 その言葉を受けてアントニアが子供達や修道女達を見てみれば、皆痩せており、彼らの服も古びて色褪せている。


 アントニアはそんな修道院で昼食をご馳走になった事を申し訳なく思った。確かに修道院の方からアントニア達に昼食を共にしようと誘ってきたのだが、もっと食材を調達して午前中に修道院に来て昼食の準備を手伝えればよかったのにと後悔した。


 でもあの村の人達も話を聞いて欲しがっていた。なのに話を聞かずに出発したら、それはそれで酷い話だろう。そうだと分かっていたら、もっと予定を長く取って慰問旅行に出掛けられればよかったとアントニアは思う。けれども彼女の希望はアルブレヒトに聞いてもらえるはずがない。今回の慰問だってペーターがアルブレヒトの許可を取り付けて手配してくれたからできたことだ。アントニアは自分だけで何もできないことがこんなに歯がゆく思えたことはなかった。


 昼食後、アントニアとペーターは修道院の中を案内してもらいながら、色々話を聞いた。この建物は、250年ほど前に宗派闘争から逃げ出した派閥が創設した修道院で、宗派闘争が下火になった後、放棄された。だが辺境まで布教したい教会本部が50年ほど前に修道女達を派遣し、それ以来、修道院は孤児院を併設して運営されている。


 本部からは一応補助金が出てそれ以外は自給自足だ。ただ、修道女達が派遣された時には既に修道院の屋根や床に穴が開いていたりして建物の状態が酷かった。抜本的な改修をすると多額の費用がかかることが判明し、きちんと修理されないまま修道院が再開された。以来、応急措置をしながら騙し騙し建物を使っているが、一番近い村が馬車で1時間と辺鄙な所にあり、根本的な改修をしようにも金も人手も足りない。


「あまり酷い不具合は村の大工に修理を頼むのですが、お恥ずかしい話、報酬をお支払いするのも苦しくて中々頼めません」


 そう告白した院長の目線の先には、バケツが床に置かれていた。屋根に穴が開いて雨漏りするのだ。


「簡単な修理でしたら、私がしましょうか?道具は持ってきてないので、お借りするしかありませんが……」

「いえ、辺境伯家の代理の方にそんなことをしていただくわけにはいきません」


 押し問答になったが、結局ペーターが簡単な修理をすることになった。ただ、ペーターは修道女より多少上手く日曜大工ができる程度な上、資材もない。だからぐらついた椅子を修理したり、緩い窓や扉の取っ手を固定したり、軋む扉の蝶番に油をさしたりするぐらいの簡単な修理しかできなかった。


 次に案内してもらった回廊から見える中庭はかつて美しい庭園だったらしい。だが今や菜園と洗濯物の干し場所になっており、その間に修道院放棄前の修道士の古い墓石が見えた。修道院再開後の墓や他の菜園は回廊の外側にあるが、塀が破損していて獣害があるため、中庭でも野菜を作っていると2人は説明を受けた。

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