第8話 嫉妬の坩堝(*)
軽い性的描写と自慰の描写があります。
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アルブレヒトと立会人達が立ち去った後、まもなく侍女達が寝室に入って来た。彼女達はアントニアに何も言わずにいきなり夜着の裾を捲って彼女の陰部を見た。彼女は慌てて隠そうとして叫び声を上げた。
「キャッ! 何するの?!」
「はぁ……旦那様は本当に鶏ガラを抱いたのね。ジルケ様がお気の毒に」
「隠さないで下さいよ。見えないと拭けません」
「い、いいわよ、しなくて。ペーターさんに拭いてもらいました」
その言葉を聞いて侍女達は目つきを鋭くした。
「普通は男性の使用人にさせる事ではありませんよ。そんなことも知らないのですか?それとも旦那様の侍従に色目を使ったのですか」
「ち、違います!破瓜の印を陛下の名代に渡すために拭いてもらっただけです!」
「そうですか……」
そうは言いながらも彼女達の目は嫉妬の色を隠せず、アントニアを信じていそうもない。
「まあいいです。安眠のためのお茶をお持ちしました。ハーブティーですので、鎮静効果もありますよ」
そのお茶は一見して普通のハーブティーに見えたが、悪意のある侍女達が持って来たものをアントニアは飲みたくなかった。
「どうぞ。私達は見ていますから、お気になさらず」
飲まなければ出て行かないと暗に言われ、アントニアは渋々ハーブティーを飲んだ。飲んでみると、思ったよりも普通で飲んでも害がなさそうに思えた。
アントニアがもう一度何もしなくていいと言うと、侍女達は仕事をせずに済んで嬉しいとばかりにすぐに立ち去った。
その頃、アルブレヒトは自室に戻るペーターと別れてジルケの待つ寝室へ戻ってきていた。
「あの女を抱いたの?」
口にしたくないことでもジルケは聞かずにいられなかった。その癖、その言葉は彼女の胸を抉った。
「……済まない、ジルケ。あの女が息子を2人産んだら抱く必要はないって陛下とも約束しているから、それまで我慢してくれないか」
「嫌よ! 私だって最初は女の子だったのよ!何人産んでも女の子しかできなかったらどうするの?!」
「その時は流石に陛下も離縁を許してくれるだろう」
「その時には私達、一体いくつになってると思うの?!その頃には私はきっともう子供を産めないわ!」
泣きわめくジルケをアルブレヒトは悲痛な表情で抱きしめた。ひとしきり泣いて嗚咽が収まってきたジルケは、いいことを思いついた。
「ねえ、アル。私と子供を作ってあの女の妊娠を偽装すればよくない?」
「そ、それは君との子をあの女の子供に偽装するってことか?そんなことが陛下や一門にばれたらやばいぞ」
「大丈夫よ。陛下も一門も貴方に息子ができればいいんだから。建前上、あの女の子供なら実際はどうだって構わないんじゃないかしら?それより私達の子があの女の子供になっちゃうほうが気にならないの?」
「あ、いや、それはそうだが…」
ジルケは自分達の愛の証をアントニアの子供にするほうが嫌なのに、アルブレヒトには国王や一門への体面の方が大事なようだった。それがたまらなく悲しくてジルケはアルブレヒトに抱きつき、彼の股間に手を伸ばした。
「おっ、おい、1晩に3回は流石にできないぞ」
ジルケはそれを聞くと、アルブレヒトの股間をまさぐる手を止め、そこにパンチを見舞った。
「うううーっ! い、痛いっ! な、何するんだ!」
アルブレヒトは床にもんどりうって七転八倒した。
「早く身体を清めて頂戴。あの女の体液が付いてる身体で隣に来ないで」
痛みがようやく引いてきたアルブレヒトは、背中を丸めながら隣の浴室に慌てて入って行った。
一方、自室に戻ったペーターは昂ぶりが収まらず、アントニアの痴態を思い出しながら自慰をした。でも達した途端、罪悪感が襲ってきた。娼館で女の愛撫の仕方を主人の命令でいやいや習ったのも、初夜の儀で時間をかけてゆっくり愛撫したのも、最初はこんな初夜に臨まなければならないアントニアへの同情からだった。でも少しずつペーターの指で快感を拾うようになった彼女が愛おしくなり、彼女のことが頭の中から離れなくなった。だが昂ぶりが収まると、哀れな彼女をおかずにして自慰をした自分が途轍もなく汚い人間のように思えて自己嫌悪が止まらなかった。
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