第7話 初夜の立会人*
少し(?)無理矢理な夫婦の交合描写があります。
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結婚式の後の宴の最中、アントニアの隣に座るアルブレヒトは彼女と一言も言葉を交わさなかった。次から次へと祝いの言葉を述べに来る招待客は、アントニアにも一応形ばかりの挨拶はするが、すぐに彼女への興味を失って新郎とばかり話した。
まだ宴もたけなわの頃にアルブレヒトは、アントニアに何も言わず立ち上がって退出した。アントニアは面食らって『旦那様、私は……』と言いかけたが、振り返ったアルブレヒトがすごい顔で睨んだので、最後まで言えなかった。侍女が近づいてきて初夜の準備のために退出すると言われ、ようやくどうしてアルブレヒトが退出したのか分かった。
アントニアもその後すぐに侍女達に連れられて浴室に放り込まれ、身体中磨かれた。侍女達は、最初おざなりにやっていたのに途中からやけに丁寧に時間をかけ始めた。
「まあ、本当にお痩せになっていらっしゃること!」
「……様とは大違いね」
「こんなお身体じゃ後継ぎを産めませんよ」
誰かと比較されたようだったが、アントニアには名前まで聞こえなかった。
アントニアは、肌が透けて見えるほどの薄い夜着を着せられた。それは前で結ぶリボンを解くだけで脱がせられる形になっていたが、深い襟ぐりから見える胸の膨らみはささやかで臀部にも丸みが付いておらず、夜着は臀部からストンとまっすぐ脚に沿って落ちる。
「本来、これを着たら色っぽくなるものですけど、お嬢様の場合、色気は感じられませんねぇ」
「あら、今日からは『奥様』なんだから、間違えちゃ駄目よ」
「ああ、この体形を見てついつい……奥様、すみませんねぇ」
「それじゃ、私達は出て行きますけど、旦那様の言う通りにして下さいね」
意地悪な侍女達が夫婦の寝室を退出してからアントニアはひたすら夫になったばかりのアルブレヒトを待っていた。だが最高に不機嫌そうなアルブレヒトが来たのは、真夜中を過ぎてからだった。それと同時にふわっとフローラルな香水のような匂いがアントニアの鼻をくすぐった。それはどう考えても女性ものの香水の匂いとしか思えない。アルブレヒトのすぐ後ろからは、宴の時に彼の背後に影のようにずっと付いていた侍従ペーターが一緒に寝室に入って来た。
「陛下の名代がいらっしゃる前にお前に言っておくことがある。私には愛する女性がいる。事情があって結婚できなかったが、彼女と別れるつもりはない」
「え?! でも教会は……」
「黙れ。これは陛下もお認めになっているんだ。お前は対外的には辺境伯夫人だが、私の心の妻は彼女だ。彼女のことを詮索したり、嫉妬したりするんじゃないぞ」
「そ、そんなこと致しません!」
「陛下の御達しだから、お前とも忌々しくても、初夜を完遂して子作りをしなくきゃいけない。でも閨があるからって誤解するんじゃないぞ。私がお前を愛することは未来永劫ない。閨は医師が子作りに適していると言う日に月1回するだけだ」
アントニアは結婚式の前にアルブレヒトと会えなかったことから、夫の愛情など期待できないとは思っていたが、ここまで酷いとは予想しておらず泣きたくなった。
「泣くんじゃない。鬱陶しい。私の方が泣きたいくらいだ。好きでもない女と結婚してこんな鶏ガラみたいな身体を抱かなきゃいけないんだぞ。だいたい、興奮しようがないから、私のモノが機能するかどうか分からないな。だとしても私の男性機能に問題はないぞ、お前の貧相な身体のせいだ」
アルブレヒトが言いたい放題言っているその時、扉がノックされ、ペーターが開けると、王の名代を務める王族が寝室に入って来た。
怪訝な顔をするアントニアにアルブレヒトは衝撃的なことを口にした。
「名代の方には初夜の立合人を務めていただく。ペーターもだ」
「えっ?! い、今時?! そ、それは……あの、止めることはできないんでしょうか?」
「口答えは許さない。これは国王陛下の御達しだ」
そう言われてしまうと、アントニアもそれ以上何も言えなくなったが、内心は恥ずかしくて抵抗感がかなりあった。
初夜の立合人が一般的だったのは、随分昔のことで、今時こんな古めかしい因習を守る貴族はまずいないし、教会も結婚する信者にこの儀式を求めない。
だがアルブレヒトが長年、元娼婦と愛人関係にあって結婚しないことは、国王フリードリヒの耳にも入っている。それでフリードリヒは自分が仲立ちした婚姻で確実に初夜が行われるかどうか懸念し、辺境伯家と王家側の証人2人に初夜の見届けをさせることにしたのだった。
立合人の2人は、アルブレヒトとアントニアが議論している間、寝室の隅に置いてある椅子に座って待機しており、彼らと寝台の間には何も遮るものがない。アントニアはまさかの可能性を考えてゾッとした。
「あの、旦那様……立合人の方達の前に衝立は……?」
「黙れ。そんなものはない。陛下は衝立なしで見届けられることをご希望している」
アントニアがショックを受けて涙ぐみそうになって俯くと、アルブレヒトは吐き捨てるように言った。
「安心しろ。誰もお前の貧相な身体なぞ見たくはないから、着たままでする。それから媚薬なしではできそうもないから、これを使うぞ」
そう言ってアルブレヒトが見せたのは香水瓶のような小さなガラス瓶で、何か液体が入っていた。アルブレヒトはそれを一気に呷り、アントニアにも別の小瓶を渡して飲むように言った。
アントニアは正直言ってそんなものを飲みたくなかったが、飲まなければアルブレヒトは激怒するだろう。仕方なく一気に飲んでから少しすると、アントニアの身体中が火照ってきた。
アルブレヒトはアントニアに寝台の上で四つん這いになるように言い、その上から覆いかぶさった。処女のアントニアといきなり身体を繋ごうとして双方に痛みが走り、怒ったアルブレヒトはアントニアの臀部を平手打ちした。
アルブレヒトはアントニアの女性の部分に触れたくないので、侍従のペーターを呼び、新妻の身体を解すように命令した。アントニアは、初夜の前に誰の目にも触れたことのなかった部分が夫の侍従にも見られることに抵抗と羞恥の気持ちが湧き上がってきた。だがペーターの気遣いと思いやりのある愛撫にその気持ちは解けていき、やがて心も身体も蕩けそうになった。
まさにその時、時間がかかり過ぎると国王の名代が文句を言い、アルブレヒトがペーターを下げた。でもアントニアの身体はまだ十分解れていなかったので、その後の夫との無理矢理な交合は、彼女には苦痛をもたらすものでしかなかった。夫婦の初めての交わりの後、アルブレヒトは破瓜の印を王の名代に渡し、3人はすぐに寝室から立ち去った。
政略結婚の妻に愛がなくても気遣いぐらいあってもよさそうなものなのに、アルブレヒトには全くなかった。ひとり寝室に残されたアントニアは、心身の痛みのせいで涙が溢れて止まらなくなった。
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