第2話 地雷物件との縁談
アントニアは、ゴットフリートのことが忘れられず、新たな婚約話に消極的だった。両親が痺れを切らして次の婚約が成立しそうになると、アントニアはいつも婚約予定の相手に馬鹿正直に元婚約者のことが忘れられないと告白した。それでもめげない相手には冷たくした。アントニアの両親は、何度も破談になる理由を不思議に思っていたが、ある時相手がアントニアの両親に破談の理由を正直に伝え、両親は彼女に激昂した。
結局、当時としては嫁き遅れとなる20歳までアントニアの婚約が成立することはなかった。ところが20歳になった年にアントニアは、12歳年上の辺境伯アルブレヒト・フォン・シャウエンブルクと王命で結婚することになった。彼女の両親は一度婚約破棄して何度も破談になった傷物の娘にはこれ以上ない優良物件だと鼻高々だった。
でも侯爵に匹敵する高位貴族の辺境伯、しかも見目麗しい貴族男性がなぜ32歳になるまで独身だったのか、知っていればそんなことは言えなかったはずだ。いや、アントニアの両親は彼が地雷物件だと知っていただろう。でも伯爵家より上の辺境伯との結婚、しかも王命では彼女自身は元より、彼女の両親にも縁談を断る術はなかった。
アルブレヒトは4歳年下の元娼婦の愛人ジルケをもう10年も囲っており、彼女との間に女児フランチスカまでもうけている。元娼婦と辺境伯が結婚できるはずもなかったが、彼は何とか彼女と結婚するためにどこかの貴族の養女にしようと頑張った。その意味では彼は一途な男性だ。でも当時まだ生きていた父親の先代辺境伯マンフレートに結婚を強硬に反対され、養子縁組を邪魔された。6年前に父が亡くなって爵位を継承した後、うるさい母も相次いで亡くなった。そこで彼はジルケと子供を作って確固な既成事実を作り、彼女を貴族の養女にしようともう一度頑張った。だが庶子を作ったことはかえって裏目に出てしまい、一門がジルケの養子縁組と結婚に大反対したまま10年経ってしまった。
しかし防衛の要である辺境伯家に後継ぎがいないのは王国としては困る。そこで国王フリードリヒが王命でアルブレヒトに結婚を迫った。既に32歳の彼に社交界デビューしたての15、6歳の令嬢を娶せてはかわいそうだということになり、辺境伯にふさわしい家格の令嬢でまだ未婚だったアントニアに白羽の矢が立った。アルブレヒトはもちろんジルケ以外と結婚なんてしたくなかったが、王命は流石に拒めなかった。
アントニアが全て知ったのは、嫁いでからだった。それがアントニアの苦難の結婚生活の始まりだった。
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国王フリードリヒは、『公爵令嬢はダメンズ王子をあきらめられない』のマクシミリアンとヴィルヘルムの父親です。
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