第31話 2人の父
コーブルク小公爵嫡男ミハエルは、早くも15歳になり、社交界デビューを迎えた。彼は16年前に亡くなる直前のルドルフにそっくりの美少年に成長した。母親のゾフィーも金髪碧眼の美形だが、ミハエルが母親似でないことは一見してわかる。
ミハエルは姿形こそルドルフの生き写しだが、趣味や性格は違うところもあれば似ているところもある。ルドルフ同様に正義感が強くて少し鈍いところはあるけど、今のところヤンデレではない。ルドルフが全く興味を持っていなかった剣術にミハエルは小さい頃から興味を持ち続けている。義伯父ゴットフリート・フォン・ノスティツの夢を引き継いだのかもしれない。ミハエルは寄宿学校では騎士課程に入り、卒業後は近衛騎士になる目標を持っている。
ミハエルは公爵家後継ぎの美少年で将来は近衛騎士だからもてる要素しかない。社交界デビュー後、令嬢の釣書がわんさか来ており、祖父母の公爵夫妻はここから選べ、それとも意中の女性がいるのかとミハエルに帰省の度にしつこく言っている。でもミハエルは少なくとも寄宿学校卒業までは婚約者を決めたくないと頑なに主張して、祖父母を嘆かせている。
長いこと一人っ子だったミハエルには妹ツェツィーリエが出来た。あの7年越しの初夜から間もなくゾフィーとラルフが授かった愛娘だ。ツェツィーリエは、後数年もすれば母親そっくりの絶世の美女と言われること間違いなしで、8歳にして既にかなりの美少女だ。まだ『将来、お兄様と結婚する!』という絶賛ブラコン中で、ミハエルも年の離れた妹を溺愛している。ラルフも娘がそう言ってるうちはまだまだ幼い子供だなと安心しつつも、いずれ手放さないといけないのが寂しいと思ってしまっている。
コーブルク公爵アルベルトは、年はとってもまだまだ現役と頑張っている。だからラルフの出番はもう少し先だろう。最もラルフ自身は、ミハエルが成長するにつれて、自分の代を飛ばしてミハエルがアルベルトから直接爵位を継いでほしいと思っていた。なので、近衛騎士団に入団する決意をミハエルから聞いた時は微妙な気分だった。爵位を継いだら、近衛騎士を務める時間がとれなくなるだろう。だからミハエルがある程度の期間、近衛騎士として働きたいのであれば、ラルフが中継ぎをするしかない。でも息子の夢を応援できるのなら、ラルフはそれでもいいかと思い直している。
ロプコヴィッツ侯爵家のゾフィーの両親もまだ健在で、ゾフィーの異母弟ルーカスが正式に後継者になった。彼らはミハエルとツェツィーリエにそれほど会う機会がないけれど、ルーカスの子供達と平等に愛している。
ミハエルはラルフが実父なのかどうか疑っているような素振りをたまにしていたが、ミハエルの社交界デビューの日まで、ラルフ達はまだはっきりと事実を告白していなかった。
ミハエルのデビュタントボール出発の前、ちょっぴりふくれっ面の留守番組のツェツィーリエも玄関ホールに来て両親と共にミハエルを祝福した。
「ミハエル、成人おめでとう。いよいよ社交界デビューだな」
「おめでとう、お兄様!」
「ありがとう、父上、母上、ツェツィーリエ。父上と母上は他にも僕に言うことあるよね?」
「「えっ?!おめでとう?!」」
「それはもう聞いたよ。僕に何か秘密にしていたことがあったでしょう?」
ラルフは自分が実の父親でないことをミハエルに告白したが、彼は既に知っていた。
「やっぱり知ってたんだな。誰がお前に言ったんだ?」
「あれだけ有名な事件だよ。それに僕はその生物学上の父の外見にすごく似ているっていうじゃないか。でも僕の父は父上、貴方だけだ。だから事実は知ってたけど、父さんから告白してほしかったんだ。僕の父は貴方だけだって言いたかったから」
「ありがとう、お前は私達の自慢の息子だよ」
「お兄様は私の自慢のお兄様よ!」
「ありがとう!うれしいよ。父上、母上、ツェツィーリエが僕の家族でよかった」
家族4人とも知らず知らずのうちに涙を流していた。
「でもお前には父が2人いるって思っていいんだよ。・・・それに2人も父がいるって何だか得した気分じゃないか?」
「うーん、得かな?!小遣い二重にもらえるなら確実に得だけどね!ハハハ」
今まで公爵家ではルドルフのことを話すのはタブーで、写真も似姿もその他の遺品も彼に関する物は一切人目に触れるところにはなかった。ルドルフの実の両親である公爵夫妻は彼の命日に墓参りをしていたが、秘密裡に行っていた。
でもミハエルのデビュタントボール翌日から全て変わった。歴代当主や家族のポートレートが飾ってある広間にルドルフの似姿も16年振りに戻ってきた。次の命日には、コーブルク公爵家3世代で、公爵家の墓地にあるルドルフの墓にお参りしようと皆で言っている。
ミハエルの社交界デビューの後、ルドルフの親友だったヴォルフガング・フォン・ディートリヒシュタインが、2人で写った最後の旅行の写真を思い出話とともに送ってくれた。社交界にデビューしたミハエルがヴォルフガングと出会うのも時間の問題だろう。ミハエルは、年下の友人として彼と仲良くできそうな予感がした。
ルドルフの写真や遺品を見て寂寥感と懐かしさはあれど、16年前のようなきりきりとした悲しみは彼の両親である公爵夫妻やゾフィーの胸にはもはやこみあげてこなかった。確実にコーブルク公爵家の人々は前に向かって進んでいる。
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