カンジ中2 新幹線を数時間止める!

じょえ

『本当にあったアホい話し』①

 これは、すさまじいまでに命の炎を燃やしたおとこたちの、後世に伝えられるべき物語である。


 むかーしむかし、世の中がとてもおおらかな時代だったとき、今では完全にアウトどころか、一発退場レベルのお話しですが、彼らが輝いているその瞬間を、大目に見て頂けたら幸いです。




『本当にあったアホい話し』①


「中2のカンジ、新幹線を数時間止める! その激闘の記録」




「おい、お前ら聞け! 俺はなぁ、電気に当たっても死なないんだぜ!」

 中学2年生にもなって、もうここからアホアホだ。


 わたしの同級生【カンジ】は、今なら完全に発達障害の子供である。

 が、当時はそう言ったものが無く、普通クラスの授業に付いてこられなさそうな子は学年を問わず「特殊学級」と言う一つのクラスに編入されて、学生時代を過ごすことになる。


 我らがカンジは、その特殊学級に居る生徒だ。


 同級生と言っても彼と直接話した事は数回しか無い。

 彼はかくヤベェ奴で、『関わるな!』『目を合わせるな!』と言うレベルである。



 今日は2学期の始まりの日。


 今やっている「掃除」を終えたら、全校生徒が体育館に集まって、校長先生様のありがたいお話を聞く時間だ。

 なおかつ、今日は運動部が全国大会に出場するので、その後壮行会も開かれ、体育館での拘束時間が長い日だった。


 全校生徒が掃除をしている中、カンジが居る特殊学級の中でも当然掃除が行われていて、冒頭の台詞はその掃除中にカンジが言ったとされている台詞だ。


「先生、俺ちょっと気持ち悪くて、早退したい」


 掃除の時間が終わったとき、カンジは先生のところに調子悪そうな感じで行って、みんなが全校集会で体育館に行く中、一人帰路に就いた。


 ウチの中学校はちょっとした山の上にあり、登校するためにはそこそこの上り坂を上らないとたどり着けない。

 

 登校坂は3本有り、それぞれ『第一登校坂』『第二登校坂』『第三登校坂』と呼ばれている。

 

 メインは町側に続いている『第一登校坂』で、ほとんどの生徒はここから登校してくる。


 カンジが使っているのは『第二登校坂』。

 『第一登校坂』の真反対に抜ける道だ。

 

 『第二登校坂』の中腹には『火葬場』がある。

 下校途中のカンジは、平日の昼間で役場の職員が一人しか居ない火葬場に忍び込んだ。


「これがい! これがカッコい!」

 カンジは火葬場から、棺桶を炉に押し込む為の長い鉄棒を盗み出し、上機嫌で帰路に戻った。


 さて、この登校坂には火葬場の少し下に、もう一つの施設がある。

 

 東海道新幹線の変電所だ。


 金網と鉄条網で区切られた区域の中に建物があり、その建物の屋根から6本の巨大芋虫みたいな碍子がいしとぶっとい電線が東西に突き出ている。


 遠目に見ても近寄る気にはなれない威圧感がある建物だったが、カンジはその金網を上り、鉄条網を越して、敷地に降り立った!


 長い鉄棒を持って!!


 何故か?


「電気に当たっても死なない」ことを証明するためにだ!!!


 見た目が凶悪そうで威圧的な建物と言っても、単なる変電施設で、常時人が居るわけではないので、建物自体はコンパクトだ。


 その電線は、カンジが手に持った鉄棒を電線に向かって伸ばせば、余裕で触れてしまう高さにある!


 漢カンジ、一世一代の大舞台の始まりだ。


 カンジは長い鉄棒の端を持つ。さながらビームサーベルだ。

 彼はビームサーベルを振り上げる。


 狙うは6本有る電線の内、一番手前にある電線だ。


「俺に電気は通じない! 俺は電気よりも強い! やるぞ、やるぞ、やるぞ!」


 カンジは意を決して鉄棒を振りかぶり、勢いよく変電施設の極太電線に接触させた!


 しかし、やっぱり怖いから電線に当たる直前に手を放し、鉄棒だけが電線に当たる。


 バッッチィィィィィィィン!


 電線と鉄棒が接触した直後、激しい音と火花が飛び散り、鉄棒が弾け飛んだ。


「お、・・・面白れぇぇぇ!」


 強がりなのか、単にアレなのか、カンジは鉄棒の激しい反応に『面白れぇ!』と言ったそうだ。


「よし、この電線を順番に全部触ってやる!」


 最初に触った一番手前の電線から順に、奥に向かって残り5本を触っていくことを決意するカンジ。


 1本目を終えて興奮状態になったカンジは、早速2本目を触るために鉄棒を振りかぶった。


 バッッチィィィィィィィン!


 2本目も1本目同様、半ば投げつける様に、勢いよく鉄棒で電線を叩きつける。


 鉄棒が電線を叩くインパクトの瞬間、恐怖心からか手を放してしまうので、電線の弾力と接触時の電気放電の力で、鉄棒は火花を飛ばしながら弾け飛ぶ。


「うおぉぉぉぉ、カッケー!」


 彼は益々興奮して地面に落ちた鉄棒を拾い、3本目にチャレンジ!


 バッッチィィィィィィィン!


 3本目も見事にクリア!

 残り3本だ。


 4本目。

 振りかぶって勢いよく鉄棒を電線に叩きつける。


 (俺ならもっとできる!)

 カンジは欲をかいた。


 その一瞬の思考が彼の手から鉄棒を離させるタイミングをズラした。




 新幹線変電所の電圧は3万ボルト!

 (現在は2万5千ボルト。当時もそうだったのかもしれないが、わたしが聞いていたのは3万ボルトでした)

 そのクラスの高電圧に触るとどうなるのか?

 答えを見てみよう。



 カンジの手が鉄棒を放すのを遅らせた為、彼の身体に超高圧電流が流れ込んだ!


 人間は電気で動いている。


 高電圧が身体に入ると身体が萎縮(?)する。

 つまり全身に力がぎゅっと入るのだ。


 カンジの拳は開かなくなり、鉄棒を離せなくなってしまった。

 たぶん地面に足を着いていたからそのままアースになったのだろうか?


 電線に吸い付けられたまま、彼は生きていた。


 鉄棒は右手で持っていた。

 腕には手首・肘・肩と関節があるので、その3ヶ所の関節で少しでも曲がる度に、電流の勢いはちょっとずつ弱くなり、右腕から右脚に電気が抜けて行ったおかげで、左寄りにある心臓への直撃は避けられた様なのだ。



「助けてぇぇぇ! 助けてぇぇぇ!」


 カンジは必死に叫んだが、今は全校集会中で誰も学校から降りてこない!


 この『第2登校坂』には『火葬場』と『変電所』と道の出口に『自動車修理工場』が一軒有るのみだ。

 つまりこの道はほとんど人が通らない!


「たすけてぇぇぇ! 熱い、熱いよぉぉぉぉぉぉ!」


 どのくらい叫んだのだろうか?

 奇跡的に下の自動車修理工場の人が近くまで散歩に来ていた。


 修理工のおじさんは驚いた!

 子供が変電所の金網を乗り越えて侵入し、電線に触ったまま泣き叫んでいるのだ。


 そしてその身体は燃え上がっているのだ!!!


 おじさんは慌てて修理工場に帰り、人を呼んで消火器で身体の火を消して、カンジは何とか助かった。

 助けた経緯は聞いていないので、詳しくお伝する事ができなくて残念だ。


 とにかく、カンジはおじさんに発見された後、再びおじさんが諸々を手配して帰ってくるまで、15分ほど燃えていたそうだ。

 発見される前までの時間ば判らない。




 救急車が来て、カンジはこの町の総合病院に運ばれた。

 

「ウチでは無理です」

 断られた!

 

 黒焦げになった子供の状態を見て、手の出しようがないと言われたそうだ。


 そこから20キロ離れた大きな町の病院に連れて行かれ、そこで無事引き取ってもらえた。


 彼の右腕・右足は完全に炭化してしまったそうで、切断するしか無かった。

 皮膚も全身焼けていて、他より分厚いお尻の皮を切開して無事な方の炭化した足や腕に移植し、しばらくしてお尻の皮膚が再生してきたら、また別の場所に少し移植してと、芝生を広げるような移植手術を何度も行ったそうです。



 新幹線を数時間止めることになったこの事件。

 一体いくら請求されたのでしょう?

 考えるだけで怖い。


 ウチの町から50万円寄付が有ったと聞きました。


 請求された金額の内、いくら支払ったのかは判りませんが、数年後、最終的には相手が特殊な子供だったこともあって、免除されたそうです。

 個人で支払える金額だとは思えませんからね。





 時が経ち、私は成人式でれから、カンジのその後を知らされることになった。

 

「おいおい、カンジのこと聞いた?」

「いや、全然」

「あれからアイツずっと病院暮らしで、今は元気になって片手片足で病院内めちゃめちゃ動き回ってらしいぜ」

「おお! まぁ元気になって良かったな」

「そんで、病院内駆け回りながら女性看護師のケツ触りまくって大変らしいぜ」

「アイツ!w すげぇーわ!」


 素晴らしき同級生です。

 まだ元気だろうか?




『電気に強いことを証明するために変電所と戦う』と言う、風車小屋と戦ったドン・キホーテのような、『本当にあったアホい話し』でした。


 おあとがよろしいようで。





 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

はじめましての方、はじめまして!


いつも応援してくださる方、いつもありがとうございます!


少ない実体験を切り売りして晒している【じょえ】と申します。


できるだけ風景が見えるように描いているつもりですが、解りにくいところなどありましたらご指摘下さい。勉強させていただきます。

 

 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、♡や ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


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『本当にあったアホい話し』①

「中2のカンジ、新幹線を数時間止める! その激闘の記録」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650173907337


他にはこんなお話しを書いています。


ちょっと留置場に入ってきた。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649739372982


『本当にあったアホい話し』②

「紙飛行機でうっかり自宅全焼。タッカー(小学生編)」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650448609758


『本当にあったアホい話し』③

そんな理由で自殺騒ぎ? レスキュー隊まで来ちゃったよ!? タッカー(中学生編)

https://kakuyomu.jp/works/16817330650467284311


『本当にあったアホい話し』④

全裸フリチンで小学生を追いかけるジジイ、イーボー!

https://kakuyomu.jp/works/16817330650682093579


観察日記『妻と13人の別人格との共同生活』

https://kakuyomu.jp/works/16816700428966142110


良かったら覗いて見てください。






 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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