アビ教官襲来

「見事なものじゃったの。あのカオスレッドに競り勝つとはな」


 ブラックが感嘆の声を上げる。

 拓磨がカオスレッドを沈めた時には、いつの間にか周囲に人が集まっていた。

 ブラックのほかに、三人の御子とトケイ技官長も来ている。


「拓磨さん、素晴らしいです。もう一つの地球アナザーアースを救ったのです」

「これは褒めてあげていいんじゃないかしら。これ以上の功績なんて、もうないわけだし」

「アハハー、対総統用の改造を施しておいた甲斐があったねー」


 少女たちの称賛の言葉が心地よい。ただ、モコの発言は少し気になるものだった。


「新たな総統よ、私も忠誠を誓いますぞ」


 トケイ技官長は調子の良いことを言う。彼はどうにも相手を見て態度を変えてくる。

 その顔は膨れ上がっており、最低限の治療だけ施されていた。ゴリ将軍のパンチを喰らってその程度なら運が良かったと言っていい。


「そういえば、ゴリ将軍はどうなったんだ」


 拓磨が疑問を口にした。自分が総統を取り込んだのだ。彼にかけられた呪縛は解けているはずだった。だが、この場にはいない。

  それに対し、御子の一人は沈痛な面持ちをして、一人は明るい口調で答える。


「アハハー、ゴリ将軍ならもう大丈夫。もう誰の支配も受けてないよー」

「ただ、思うことがあるのでしょう。一人になりたいようでした」


 そんな会話の最中だ。もう一人、勝算の拍手を送ってきたものがあった。最後の一人は頭上にいた。天井の梁の上に座り、こちらの様子を見下ろしている。


「あらあら、勝っちゃったのねぇ。大金星じゃない。ただの藁兵ストローマンがカオスレッドに勝つだなんて。

 でも、一番望ましい展開だったかもしれない。私の手で終わらせられるんだから」


 マゼンタのロングボブ、形の良い乳房と引き締まった筋肉の裸体を惜しげもなくさらす女性。翼を羽ばたかせたアビ教官だった。

 アビ教官は梁から飛び退くと、青い仮面を顔につける。


「変身」


 アビ教官の身体が光に包まれ、全身が青く染まる。そして、銀色の紋様が浮かび上がった。

 カオスアビスとしての姿だ。


「カオスイレギュラーズの力を集め、複製した目的。カオスレンジャーを組織してカオスイレギュラーズに対抗するため、そんなのは建前なのよ。

 私は総統を殺す力を増やしたかったのよ。できれば、自分の手でやりたかったけどね。残っていてくれて嬉しいわ」


 そう言いながら、カオスアビスは拓磨に近づいてくる。

 消耗が激しい。だが、力を振るわなくてはならないようだ。拓磨はレプリカブレードと強化アームを構えた。


「なんてこと! そんな歪んだ目的を持っていたのですか」

「残念ね、あなたの狙いは全部裏目よ。拓磨は負けないんだから」

「アハハー、カオスレンジャーは役に立ちましたよー。こうしてもう一つの地球アナザーアースは存在してるもの」


 御子たちが抗議の声を上げる。


「最初に言ったはずよ。全部ぶち壊したいって。私の手でもう一つの地球アナザーアースを終わらせられるなんて。ぞくぞくするわぁ」


 御子たちなど意に介さないように、カオスアビスは歩みを進める。その手に剣が形成された。

 勝負は一瞬で決まる。


 拓磨の身体がよろめいた。だが、必死で体勢を立て直す。


 ガクッ


 倒れたのはカオスアビスであった。レプリカブレードの一撃を喰らい、袈裟斬りに身体が破損している。傷口からは、バチバチと電子音とともに火花が舞っていた。

 変身が解け、アビ教官としての姿に戻る。切り傷からは血が流れていた。


「バカな。拓磨なんて私の相手にもならなかったはず。いつの間に、こんな……」


 アビ教官が苦し気に嗚咽を漏らす。


「実力を見誤ったのぉ。拓磨殿は着実に力をつけていたのじゃろう。カオスレッドに勝ったのが偶然であろうはずもない」


 ブラックが口を挟んだ。その言葉によりアビ教官はより深い絶望に沈んだ。

 そこに現れるものがある。


――キヒヒヒヒヒヒヒ


 不気味な笑い声が響いた。次の瞬間、アビ教官のもとに紫色の戦士が現れる。カオスバイオレンスだ。


「アビ教官、君の殊勝な心掛け、立派だよ。力を貸してあげよう」


 そう言うと、カオスバイオレンスは再び不気味な笑い声を上げた。

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