Another.09 地球の存亡と可能性のこと
カオスファイヤー拓磨 VS カオスレッド幸輔
カオスファイヤー拓磨はレプリカブレードを構え、カオスレッドと対峙していた。総統となった今、この戦いこそが頂上決戦である。
だが、カオスレッドは構えを解いた。隙だらけであるが、それ故に隙を見出すことができない。
「一応、教えておくか。世界帝国の総統は不死身だ。
その異海の加護を打ち破れるのが、俺たちカオスイレギュラーズ。混沌の非常事態に対応する者たちだ。つまり、今のお前が死ねば、
それは衝撃的な事実だった。そして、カオスレッドはウソをついていない。カオスレッドはウソなどつかないし、つけない。彼の言葉は全て真実なのだ。
「そ、そんなことが……!」
動揺は隠しきれなかった。その様子を見て、カオスレッドは笑った。
「怖気づいたか? だったら、逃げるか? 逃がさないけどな。
カオスレッドの言葉は正論である。
しかし――。
「
拓磨は啖呵を切った。それでも、カオスレッドの嘲るような笑いは止まらない。
「所詮は力づくで奪った総統としての地位だろう。戦う以外に、お前に何ができるんだ?
政治ができるのか? 何の経験もなく、何の勉強もしていない、そんなお前に
拓磨は言葉に詰まる。カオスレッドの言葉はあくまで正論だ。
しかし、それでも拓磨は知っている。幼くして世界帝国に拉致された友人たちを。強制的に藁兵に改造され、薬物で自我を失い、戦い続ける兵士たちを。
そんな彼らのために、自分でもやれることがあるはずだ。
「俺は前の総統のようにならない。人々の幸せのために政治を行う。例えデタラメでも、それさえ信じていれば、少しはマシな世の中になってくれるはずだ」
カオスレッドの笑いが止まった。
「最悪の政権を打ち倒し、自分たちがさらなる最悪となる例なんて、いくらでもある。お前の言葉には説得力がない!」
その言葉に拓磨は圧倒される。だが、どうにか食いしばり、前に出た。
「なら、どうする? 俺を止めてみるか!?」
再び剣を構えた拓磨に倣い、カオスレッドも剣を構えた。
「もとより、そのつもりだ。勝ったものの主張が押し通る。それが戦いというものだ」
二人の激突が始まった。
カオスレッドの直剣による突きが拓磨に迫る。拓磨はレプリカブレードを直剣に変え、どうにか擦らせて回避した。そのまま後ろに下がる。
リングブレードを鞭状に変化させ、カオスレッドは追撃した。拓磨もまた同様に鞭状に変化させたレプリカブレードで鞭を絡め取り、さらに後ろへと下がる。
今度はチャクラム上に変化したリングブレードが飛んできた。拓磨もまたチャクラムを放ち、弾き返す。
「相変わらず猿真似ばかりか。ならば、これはどうだ」
屋内だというのに、カオスレッドは気流に乗り飛び上がった。そして、瞬時に拓磨への距離を詰める。同時に正拳で拓磨を殴りつけた。
ドゴォォォン
派手な音が鳴り、拓磨は地面にしたたかに打ち付けられる。頭が真っ暗になり、光が点滅するのを感じた。
どうにか立ち上がるが、やはり正拳が飛んでくる。同じ力を持っていても、戦い事体の技量にまだ差があるのだ。
この場は逃げるしかない。拓磨もまた気流に乗り、その場から去る。
だが、逃げた先に炎が巻き起こった。排熱を利用した火炎放射だ。
カオスファイヤーとして動くだけでも熱に浮かされるというのに、さらなる火炎攻撃。これには堪らず、変身が解ける。
そこへカオスレッドが近づいてきた。
このままでは負ける。そして、自分は死に、
どうにかして、力を振り絞るしかない。そう思うと力がみなぎってくるものを感じる。拓磨の腕が膨れ上がっていた。その膨らみは筋肉であり、剛毛である。指先からは強靭な爪が伸びていた。
この状況で
――グルルゥゥゥゥオオオオ
拓磨は吠えた。
迫りくるカオスレッドに対して、その剛腕から爪を振るう。カオスレッドはそれを直剣で受け流すが、さらにもう片方の腕から連撃を繰り出した。さすがのカオスレッドも避けきることができない。その装甲を斬り裂いた。
このパワー、カオスレッドにも通用する。だが、なにかが違う気がした。
この力は果たして自分自身のものなのだろうか。
「これは、俺じゃなかったな」
拓磨は
「……面白いな」
カオスレッドの声が心なしか、喜色ばんだように感じた。
自分の中には、藁兵としての戦いの経験と記憶が蓄積されている。ともに戦ってきた仲間たちも、強敵として相対した者たちも、その誰もが拓磨と切磋琢磨してきたのだ。猿真似と揶揄されようとカオスファイヤーの力も自分自身の血肉となった実感がある。それらの全てが自分自身だ。
父もまた藁兵だった。それはもう恥ずべき記憶ではない。誇りとなっている。
ならば、俺は何者だ。拓磨は自分自身に問いかける。
「俺は
そう宣言するとともに、拓磨の全身が輝き始める。
カオスレッドはその変化に満足したように言い放った。
「それでこそ、俺のライバルだ!」
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