Another.09 地球の存亡と可能性のこと

カオスファイヤー拓磨 VS カオスレッド幸輔

 カオスファイヤー拓磨はレプリカブレードを構え、カオスレッドと対峙していた。総統となった今、この戦いこそが頂上決戦である。

 だが、カオスレッドは構えを解いた。隙だらけであるが、それ故に隙を見出すことができない。


「一応、教えておくか。世界帝国の総統は不死身だ。

 もう一つの地球アナザーアースがある限り死ぬことはない。もう一つの地球アナザーアースもまた総統が生きている限り、存在し続ける。

 その異海の加護を打ち破れるのが、俺たちカオスイレギュラーズ。混沌の非常事態に対応する者たちだ。つまり、今のお前が死ねば、もう一つの地球アナザーアースの存在も消滅する」


 それは衝撃的な事実だった。そして、カオスレッドはウソをついていない。カオスレッドはウソなどつかないし、つけない。彼の言葉は全て真実なのだ。


「そ、そんなことが……!」


 動揺は隠しきれなかった。その様子を見て、カオスレッドは笑った。


「怖気づいたか? だったら、逃げるか? 逃がさないけどな。

 本来の地球オリジナルアースもう一つの地球アナザーアースと分かれたことで可能性を失っている。一つに戻らなければならないのだ。それは世界帝国に支配された人々を解放することでもある」


 カオスレッドの言葉は正論である。もう一つの地球アナザーアースが存在することで失われたものがあるのだろう。圧政に苦しむ人々も、もう一つの地球アナザーアースがなくなれば存在しなくなるのだ。

 しかし――。


もう一つの地球アナザーアースの人々は苦しみながらも懸命に生きてきた。それを消滅させるようなことは許さない。この世界の総統として!」


 拓磨は啖呵を切った。それでも、カオスレッドの嘲るような笑いは止まらない。


「所詮は力づくで奪った総統としての地位だろう。戦う以外に、お前に何ができるんだ?

 政治ができるのか? 何の経験もなく、何の勉強もしていない、そんなお前にもう一つの地球アナザーアースの人々のために何ができるんだ?」


 拓磨は言葉に詰まる。カオスレッドの言葉はあくまで正論だ。

 しかし、それでも拓磨は知っている。幼くして世界帝国に拉致された友人たちを。強制的に藁兵に改造され、薬物で自我を失い、戦い続ける兵士たちを。

 そんな彼らのために、自分でもやれることがあるはずだ。


「俺は前の総統のようにならない。人々の幸せのために政治を行う。例えデタラメでも、それさえ信じていれば、少しはマシな世の中になってくれるはずだ」


 カオスレッドの笑いが止まった。


「最悪の政権を打ち倒し、自分たちがさらなる最悪となる例なんて、いくらでもある。お前の言葉には説得力がない!」


 その言葉に拓磨は圧倒される。だが、どうにか食いしばり、前に出た。


「なら、どうする? 俺を止めてみるか!?」


 再び剣を構えた拓磨に倣い、カオスレッドも剣を構えた。


「もとより、そのつもりだ。勝ったものの主張が押し通る。それが戦いというものだ」


 二人の激突が始まった。

 カオスレッドの直剣による突きが拓磨に迫る。拓磨はレプリカブレードを直剣に変え、どうにか擦らせて回避した。そのまま後ろに下がる。

 リングブレードを鞭状に変化させ、カオスレッドは追撃した。拓磨もまた同様に鞭状に変化させたレプリカブレードで鞭を絡め取り、さらに後ろへと下がる。

 今度はチャクラム上に変化したリングブレードが飛んできた。拓磨もまたチャクラムを放ち、弾き返す。


「相変わらず猿真似ばかりか。ならば、これはどうだ」


 屋内だというのに、カオスレッドは気流に乗り飛び上がった。そして、瞬時に拓磨への距離を詰める。同時に正拳で拓磨を殴りつけた。


 ドゴォォォン


 派手な音が鳴り、拓磨は地面にしたたかに打ち付けられる。頭が真っ暗になり、光が点滅するのを感じた。

 どうにか立ち上がるが、やはり正拳が飛んでくる。同じ力を持っていても、戦い事体の技量にまだ差があるのだ。

 この場は逃げるしかない。拓磨もまた気流に乗り、その場から去る。


 だが、逃げた先に炎が巻き起こった。排熱を利用した火炎放射だ。

 カオスファイヤーとして動くだけでも熱に浮かされるというのに、さらなる火炎攻撃。これには堪らず、変身が解ける。

 そこへカオスレッドが近づいてきた。


 このままでは負ける。そして、自分は死に、もう一つの地球アナザーアースは消滅するだろう。

 どうにかして、力を振り絞るしかない。そう思うと力がみなぎってくるものを感じる。拓磨の腕が膨れ上がっていた。その膨らみは筋肉であり、剛毛である。指先からは強靭な爪が伸びていた。

 この状況で異海将校アウターマンとしての力に目覚めたのだ。巨大な緋熊の異能戦士アウターマン。それが拓磨の獲得した異海の力であった。


 ――グルルゥゥゥゥオオオオ


 拓磨は吠えた。

 迫りくるカオスレッドに対して、その剛腕から爪を振るう。カオスレッドはそれを直剣で受け流すが、さらにもう片方の腕から連撃を繰り出した。さすがのカオスレッドも避けきることができない。その装甲を斬り裂いた。


 このパワー、カオスレッドにも通用する。だが、なにかが違う気がした。

 この力は果たして自分自身のものなのだろうか。異海外なる世界から借り受けている力に過ぎないのでは。


「これは、俺じゃなかったな」


 拓磨は異能戦士アウターマンとしての変身を解いた。藁兵+5ストローマンプラスごの姿に戻る。


「……面白いな」


 カオスレッドの声が心なしか、喜色ばんだように感じた。


 自分の中には、藁兵としての戦いの経験と記憶が蓄積されている。ともに戦ってきた仲間たちも、強敵として相対した者たちも、その誰もが拓磨と切磋琢磨してきたのだ。猿真似と揶揄されようとカオスファイヤーの力も自分自身の血肉となった実感がある。それらの全てが自分自身だ。

 父もまた藁兵だった。それはもう恥ずべき記憶ではない。誇りとなっている。

 ならば、俺は何者だ。拓磨は自分自身に問いかける。


「俺は藁兵+無限開放ストローマンインフィニティだ!」


 そう宣言するとともに、拓磨の全身が輝き始める。

 カオスレッドはその変化に満足したように言い放った。


「それでこそ、俺のライバルだ!」

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