総統に
深く何重にも
老人は拓磨に向けて、何事かの言葉を発した。だが、何も聞こえない。
「ん? あれ、全然聞こえないけど、喋っているのか?」
思わず呟いた。そして、異変に気付く。耳が聞こえないのだ。
前にも異変があったが、ここに来て完全に壊れてしまったのか。これだからジャンク品は困る。
――この者は言葉で人心を操るようだな。この状況で耳が聞こえないとは運がよい。
頭の内側から聞こえるような声があった。聞き覚えのある声だ。ブルーである。
殺すことができるとは思えなかったものの、まさか自分の体内で生きているとは、拓磨も思ってはいなかった。
――私を地球に呼び寄せた存在はこの者を殺せと言っている。
だが、私はお前の体内でお前の感情や感傷も学習した。お前の目的のためには、この者は殺すべきではないかもしれない。しかし、それだとゴリ将軍は操られたままだ。
その上で、お前に選んでもらいたい。お前は殺すのか。それとも、生かすのか。
「ああ、なるほど。それなら俺が選ぶ道は一つしかない」
拓磨はカオスファイヤーへの変身を解除する。
拓磨は人面疽の如き老人を取り込んだ。
老人の能力が分析され、新たな強化アームの
それはまさに、世界帝国の総統であることを示す能力であった。この瞬間、拓磨は総統に成り上がったのだ。
「あまり実感が湧かないものだな。力で無理やり奪っただけだし、こんなものか」
総統となった拓磨がぼやく。心の内側から声が聞こえた。
――見事だ。私自身の立場を思うと複雑だが、今は素直に祝福しよう。おめでとう。
祝ってくれるのは体内にいる
この場所にはもう用はない。総統の居室を後にした。
「ザザ……ザザ……」
チューニングが乱れるような音が鳴る。再び、耳が聞こえるようになったようだ。どうにも、タイミングが出来過ぎているようにも思える。
そんな拓磨のもとに近づいてくるものがあった。燃え上がるような三眼を紋章として額に抱く赤い戦士。カオスレッドだ。
彼も拓磨同様に連戦をこなしてきたのだろう。そのスーツやヘルメットは損傷し、彼自身にも傷が散見された。
「ほう、お前が世界帝国の総統になったのだな」
カオスレッドが言う。奇妙な気持ちになった。
この男がそう言ったから、運命が捻じれ、拓磨に総統としての力が宿ったのではないか。そんな因果の逆転を感じてしまう。
「変身!」
拓磨の身体が燃え上がり、灼熱の苦痛とともに力がみなぎった。
「だったら、どうする?」
カオスレッドとカオスファイヤー。運命の戦士と悪の総統。地球の存亡を決する戦いが始まらんとしていた。
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