総統に

 人面疽じんめんその如き老人の視線が彗佐せっさ拓磨たくまに向けられている。

 深く何重にもしわが刻まれており、その年齢を推し量ることはできない。優に百歳は超えているのではないか。そう思えた。

 老人は拓磨に向けて、何事かの言葉を発した。だが、何も聞こえない。


「ん? あれ、全然聞こえないけど、喋っているのか?」


 思わず呟いた。そして、異変に気付く。耳が聞こえないのだ。

 前にも異変があったが、ここに来て完全に壊れてしまったのか。これだからジャンク品は困る。


――この者は言葉で人心を操るようだな。この状況で耳が聞こえないとは運がよい。


 頭の内側から聞こえるような声があった。聞き覚えのある声だ。ブルーである。

 殺すことができるとは思えなかったものの、まさか自分の体内で生きているとは、拓磨も思ってはいなかった。


――私を地球に呼び寄せた存在はこの者を殺せと言っている。

 だが、私はお前の体内でお前の感情や感傷も学習した。お前の目的のためには、この者は殺すべきではないかもしれない。しかし、それだとゴリ将軍は操られたままだ。

 その上で、お前に選んでもらいたい。お前は殺すのか。それとも、生かすのか。


「ああ、なるほど。それなら俺が選ぶ道は一つしかない」


 拓磨はカオスファイヤーへの変身を解除する。藁兵+5ストローマンプラスごへと姿が戻った。そして、強化アームを老人に向けた。

 補助装置アタッチメントを起動していないプレーンの状態だ。その状態であれば、肉片から異能戦士アウターマンの能力を分析・複製ができる。

 拓磨は人面疽の如き老人を取り込んだ。


 老人の能力が分析され、新たな強化アームの補助装置アタッチメントとして起動される。それはアンクであった。そのアンクを掲げて、言葉を発することで、周囲の人間を思うがままに従わせることができる。

 それはまさに、世界帝国の総統であることを示す能力であった。この瞬間、拓磨は総統に成り上がったのだ。


「あまり実感が湧かないものだな。力で無理やり奪っただけだし、こんなものか」


 総統となった拓磨がぼやく。心の内側から声が聞こえた。


――見事だ。私自身の立場を思うと複雑だが、今は素直に祝福しよう。おめでとう。


 祝ってくれるのは体内にいる宇宙生命体プラズマせいめいたいだけだ。

 この場所にはもう用はない。総統の居室を後にした。


「ザザ……ザザ……」


 チューニングが乱れるような音が鳴る。再び、耳が聞こえるようになったようだ。どうにも、タイミングが出来過ぎているようにも思える。


 そんな拓磨のもとに近づいてくるものがあった。燃え上がるような三眼を紋章として額に抱く赤い戦士。カオスレッドだ。

 彼も拓磨同様に連戦をこなしてきたのだろう。そのスーツやヘルメットは損傷し、彼自身にも傷が散見された。


「ほう、お前が世界帝国の総統になったのだな」


 カオスレッドが言う。奇妙な気持ちになった。

 この男がそう言ったから、運命が捻じれ、拓磨に総統としての力が宿ったのではないか。そんな因果の逆転を感じてしまう。


「変身!」


 拓磨の身体が燃え上がり、灼熱の苦痛とともに力がみなぎった。


「だったら、どうする?」


 カオスレッドとカオスファイヤー。運命の戦士と悪の総統。地球の存亡を決する戦いが始まらんとしていた。

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