ブルーの追撃

 彗佐せっさ拓磨たくまは宮殿の扉をこじ開けると、中に入る。ガランとした空間が広がっているように感じた。

 警備は外側に集中しており、内側にはほとんどいないようだ。ゴリ将軍が門を守っていたため、突破されないと踏んでいたのだろうか。

 少数の藁兵ストローマンを瞬く間に打ち倒すと、拓磨は急いだ。


 しかし、総統はどこにいる? 拓磨にはこの場所での土地勘など一切ない。だが、あらかじめ、御子が用意したという地図をインプットしてあった。

 脳から直接つながることのできるコンピュータが頭の中に入っている。地図を検索し、頭の中で展開した。


――こっちだ。


 拓磨は確信を持って走りだした。すると、頭上から光線が撃ちこまれる。

 何者かが入ってくる気配はなかった。待ち伏せされたのか。いや、それも違う。テレポートで入ってきたんじゃないか。


――これはブルーだ。


 ならば、前! 拓磨はその動きを予想し、瞬時にカオスファイヤーへと変身し、レプリカブレードの直剣を前に突き出す。

 果たして、ブルーがその場に出現していた。直剣はブルーを貫いているが、シュワシュワと音を立てるように、ブルーの身体は霧散するばかりである。


「これなら!」


 排熱を剣に集中させた。熱気が周囲に伝わり、ブルーの身体は消えていった。だが、少し離れた場所にブルーは出現する。どんなに斬っても、熱で溶かしても効果がない。


「総統の居場所、知っているのだな。学習させてもらう」


 ブルーもまたブレスレットから剣を生み出し、構えながら拓磨のもとへと飛んでくる。

 ガキィンと音を鳴らし、拓磨のレプリカブレードと打ち合った。だが、拓磨の動きに精彩が欠く。斬り合いで打ち勝ったとして、ブルーにダメージを与えることもできないのだ。そのモチベーションは低いといえた。


 打ち合いながらも、拓磨は片手に排熱を集中させる。そして、その熱が発火を始めるタイミングで、ブルーの頭部に向けてその熱を放った。

 ボワァッと炎が巻き起こる。目眩ましだ。

 その隙を突いて、拓磨は逃げた。倒せない敵を相手取るなんて馬鹿げている。


 しかし、どこに逃げるべきか。少し迷うが、厨房へ向かうことにした。全速力でその場所へと走る。

 どうにか厨房に入ったところで、ブルーの気配を感じた。光線が来ることを直感し、瞬時に回避する。


「生体反応を感知している。逃げることはできない。学習したらどうだ」


 ブルーに追い詰められる。じりじりと後ろに下がっていた。行き止まりとなる。

 もう逃げることはできない。ブルーが腕を交差させ、光線を撃ち出そうとしていた。


――今だ!


 拓磨は背後にあった巨大な冷凍庫の扉を開くと、そのまま倒して、ブルーを閉じ込める。作戦は当たった。しかし、どこまで効果があるものか。

 冷凍庫の背面から輝く熱線が出現し、穴を開ける。ブルーが脱出しようとしていた。だが、ここがチャンスだ。

 現れたブルーに、レプリカブレードの直剣の一撃が入る。綺麗に決まった。


「決まったか?」


 しかし、先ほどと同様にブルーの身体は霧散するだけで、損傷させるには至らなかった。


「学習の機会だ。この程度の低温では、私の体の変化を止めることはできない」


 この戦い方ではブルーは倒せない。拓磨の脳裏に焦りが浮かぶ。

 だが、失敗したときは逆をするだけだ。拓磨は滅多矢鱈に剣を振るい、ブルーを攻撃する。ブルーは剣を具現化させて防御しつつ、避けきれない攻撃は身体を霧散して無効化する。

 ブルーは拓磨の間合いの内側に来ていた。とはいえ、拓磨の体内には熱が溜まり切っている。拓磨は自分の体内で燻る熱エネルギーを解放した。周囲に熱が伝わり、ガスや油が発火する。そして、爆発した。


 ドゴォォォォン


 周囲に爆炎が撒き散る。熱により、ブルーの身体は霧散した。爆炎はプラズマである。それにより、ブルーの身体と混じり合い、再構成が困難になった。

 だが、それでどうする。時間を稼いだだけか。この状況においてもなお、拓磨には焦りがあった。


――ならば、飲み込む。


 カオスファイヤー拓磨は炎の戦士である。その大口を開け、息を吸い込むように、爆炎を呑み込んだ。爆炎のすべてが拓磨の体内に吸い込まれていく。

 げふっ。身体の内側が燃え上がっているのを感じる。だが、ブルーは消えていた。拓磨が飲み込んだからだ。


 これは倒したということでいいのだろうか。ふらふらと体力を消耗したものを感じつつも、勝利の実感が湧いてくる。

 もはや邪魔するものもいない。


 拓磨は総統の居室の前に辿り着いていた。


 ドカッ


 扉を破壊すると、居室の中に入った。総統とはどんな奴か。どんなに恐ろしい相手なのか。

 警戒しながらも、周囲を見渡す。


 果たして、その部屋にいたのは藁兵ストローマンであった。いや、藁兵と言い切るには装備が旧式である。百年以上前の古いモデルのように思えた。

 藁兵は拓磨を観察するように眺めている。


 拓磨は困惑した。この藁兵こそが世界帝国の総統だというのか。


 だが、躊躇することが最も危険だ。そう判断して、瞬時に旧藁兵の首を斬り落とした。カランカランと頭の落ちた音が鳴る。

 しかし、旧藁兵の首の断面には皺がれた老人の顔が浮かんでいた。老人は拓磨を睨みつける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る