ゴリ将軍の怒り
カセイ参謀長が倒れると、戦況は膠着した。まさしく、三つ巴の形になったのだ。攻撃を仕掛けたものがほかの二人の集中攻撃を喰らう。そのため、安易な攻撃は自殺行為だ。
とはいえ、このまま手をこまねいていても時間を無駄にするだけ。何か突破口はないか。
拓磨は焦りを募らせながらも、どうにか策を練ろうとする。
「拓磨さん、先へ進んでくださーい!」
黄色い声が響いた。カオスシャインがジェット噴射で飛行しつつ、向かってきている。その飛行はどこか危なっかしいものであったが、AIによる制御でどうにか飛ぶことができている。
「え、えと、機関銃を発射って、これでいいのかな……」
ダダダダダダダダダッ
銃弾の雨がブラックとゴリ将軍を襲った。ブラックは刀を振るって銃弾を跳ね返し、ゴリ将軍は弾丸をものともしない上腕二頭筋で攻撃を弾いた。
その直後、ズサァーっと足を擦らせながら、カオスシャインが軟着陸する。装甲は
「拓磨さん、総統を倒せるのはあなただけです。先を急いでください」
そう言いながらも銃弾を放っている。ゴリ将軍は腕で弾丸を弾きつつ、近寄ってきた。言い様のない怒気を孕んでいる。
そして、カオスシャインの頭を掴むと、そのまま地面に叩きつけた。
ダガン
豪快な音が鳴り響く。カオスシャインは痛ましい嗚咽を漏らした。
こうなると、拓磨も先へ進むどころではない。カオスシャインを助けなくては。
ヒュンッ
矢が飛んできた。それはゴリ将軍の腕を的確に狙い、貫く。
矢は何度も飛んできた。そのどれもが的確にゴリ将軍に命中する。
これには、さすがのゴリ将軍も堪らない。カオスシャインの頭から手を離して身構えると、怒号を響かせた。
「何者だ!? 姿を現せ!」
そのタイミングを見計らったのか、物陰から現れるものがあった。全身に時計の意匠を施した長身の男である。トケイ技官長だ。
「1307年11月18日。ウィリアム・テルは息子の頭に乗ったリンゴを的確に射抜きました。それを再現したのです」
トケイ技官長は弓矢でゴリ将軍を牽制しつつ、近づいてくる。今度はカオスシャインを守るようにゴリ将軍の前に立った。
弓矢はレイピアに変わり、その得物を優雅に構える。
「拓磨くん、ここは私に任せて先へ。我らの悲願を果たすのです」
拓磨は少し迷うが、その言葉に従って、この場は任せることにした。ゴリ将軍に注意を払いつつ、少しずつ距離を取り始める。
「1627年9月10日。ダルタニャンはリシュル―枢機卿の陰謀を暴くべく大立ち回りを演じる」
目にも止まらぬ斬撃がゴリ将軍に浴びせられた。これがトケイ技官長の能力。かつて起きた出来事を自らの身体を媒介に再現できるのだ。
歴史上の勇者の動きを再現したトケイ技官長によってゴリ将軍は追い詰められる。だが、何度もゴリ将軍を打ち付けているうちに、レイピアにひびが入っていた。
「技術者如きが戦場で軍人に敵うものではない」
どすの利いた声が響く。ゴリ将軍にはゴリラのパワーが宿っている。
その正拳がレイピアを折り、そのままトケイ技官長の顎を砕いた。脳にそのパワーが伝わり、一撃でトケイ技官長は倒れる。
非戦闘員としては善戦したものの、ゴリ将軍とまともに戦えるはずもなかった。
「そして、貴様! 裏切者は許せぬ!」
ゴリ将軍から鬼気迫る怨嗟の声が発せられる。ゴリ将軍ではない、別の誰かがその体から声を出しているように思えた。
カオスシャインを抱え上げると、再び地面に叩きつける。何度も、何度も。ついにはその装甲が崩れ、カオスシャインの変身が解けた。
それは女性の姿だった。茶色がかった美しい髪が長く伸び、戦場には不似合いな白いワンピースを着ている。だが、激しい殴打により、全身に打撲の痕が痛々しく刻まれていた。
拓磨はその姿に激しく感情が乱されるものがあった。曖昧だった記憶が鮮明なものに変わっていく。
「
それは、かつて世界帝国の総統になることを誓った幼馴染の少女の名前だった。顔も名前も曖昧だったものが、ハッキリと思い出したのだ。
そして、もう一つの気づきがある。世界帝国の御子、アイ、マイ、モコの三人。彼女の名前と似通っている。一体、どういうことなのか。
「あはっ、曖昧にしてた記憶が……甦っちゃいましたか……」
哀昧モコが振り絞るように声を出すが、次の瞬間には彼女の身体が三つに分かれた。拓磨と近い年齢の女性だったのが、10歳にも満たない3人の少女の姿に変わる。
「あの三人が哀昧モコと同一人物だった……?」
拓磨は何も理解できないことをただ呟いた。理解はできないが、ほぼ間違いない事実なのだろう。
ゴリ将軍はアイ、マイ、モコの三人に迫っていた。その足がせり上がり、倒れる少女たちに振り下ろされようとする。
ダーン
ゴリ将軍が吹っ飛んでいた。御子の前にブラックが立っている。
「この状況はさすがに見逃せんな。わしが相手になろう。
拓磨殿よ、ここはわしに任せてよいぞ。おぬしには果たすべき使命があるのだろう。この理不尽な暴力に抗うための使命なら、それがどんなものか興味が出てきたっちゃ」
恐るべき強敵であるブラックが御子を守るのだという。その言葉はなぜか信頼できた。圧倒的な安心感がある。
こうなれば任せるしかない。総統を倒すのだ。そうすればゴリ将軍も正気に戻るように思える。
この場を収めるためにも、拓磨は急がねばならなかった。
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