宿命の戦い

「貴様、何をするか!」


 カオスキラー、いや、カセイ参謀長の怒声が響いた。それに対し、ブラックは飄々と返す。


「なに、窮屈そうにしていたのでな。楽にしてやったまでよ」


 一見乱暴なようだが、その言葉には理があった。これまで、カセイ参謀長はカオスキラーとしての力のみを使用して戦ってきている。異海将校アウターマンとしての多彩な技は敢えて封印していたのだ。カオスキラーの能力に加え、その力を使えば、今まで以上に強力なのは間違いない。


「ふん、まだ全力を出すべき時ではないが、こうなっては仕方ない」


 カセイ参謀長はカッカッカッと笑う。そして、ゴリ将軍に向けてサーベルを指すように構えると宣言した。


「御子の命により、私はお前を止めねばならん。覚悟することだな」


 その言葉を聞いた時、ゴリ将軍の眼が光る。それまでのゴリ将軍とはまるで違う異質な感情が混ざったように思えた。


「あの薄汚い裏切者か! 許してはおけぬ。お前もこの場で死ぬのだ」


 胸をはだけさせ、その剛腕を叩きつける。再びドラミングが始まった。

 藁兵ストローマンの筋肉がはち切れんばかりに膨れ上がる。その士気は最高潮にも上がり、死をも恐れぬ強兵となった。しかし――。


「拓磨くん、いやカオスファイヤー。気がついたか?」


 カオスキラーことカセイ参謀長が拓磨に耳打ちをした。拓磨は頷く。


「これなら、むしろ、やりやすい」


 拓磨はレプリカブレードに自身の力を込める。巨大な大剣へと姿を変えた。

 そこへ、強化藁兵が迫る。その攻撃を拓磨はかわすと、大剣を振るい、一刀両断する。大振りの攻撃でありながら、藁兵の動きを読み切っているのでクリーンヒットしたのだ。


 筋肉が急激に強化されたために、動きがかえって遅くなっていた。また、死を恐れないがゆえに、攻撃を避けようともしない。並の相手であれば強化されたというべきものではあるのだが、今の拓磨のレベルではむしろ戦いやすい相手になっていた。


「カカ、終わりだな」


 カセイ参謀長は周囲に重力場を発生させ、近寄る藁兵の動きを鈍らせる。そして、一体一体の頭部をサーベルで貫いていった。

 彼の周りをフォボスとダイモスと呼ばれる光球が旋回し、近寄るものに攻撃を仕掛ける。隙はない。

 加えて、ブラックもまた藁兵たちをバッタバッタと薙ぎ倒していた。


「ハッハッハ、効果覿面じゃ。随分と戦いやすくなったわい」


 そう言って、ブラックはしたり顔で笑う。

 いつの間にか、藁兵は僅かな数に減っていた。


「今こそが好機!」


 拓磨は気流に乗って跳び上がり、ゴリ将軍の脳天目掛けてレプリカブレードを振り下ろす。

 しかし、その瞬間、時の流れが緩やかになった。


 ガキィン


 ブラックの刀が拓磨の剣を弾く。


「やはり野暮天じゃの。あの二人の戦い、見たくはないのか?」


 ブラックが高めに構えた正眼で、拓磨の目元に刀を突きつけながら、そう発言した。

 見ると、ゴリ将軍とカセイ参謀長が相対している。

 この二人は、一体どちらが強いんだ? そんな素直な疑問が湧いた。


「今はおぬしの相手はわしじゃ。よろしく頼むよ」


 そう言うと、ブラックが瞬時に刀を振り上げ、拓磨を斬りつける。それをレプリカブレードで受け流して回避した。

 彼もまた油断できる相手ではない。油断した瞬間に首が地面に落ちる。ピリピリした殺気から、それを実感していた。


「士官学校時代から、お前が私に勝てたことがあったか? 降伏するなら今のうちだぞ」


 そう言うと、カセイ参謀長の周囲を回っていた二つの衛星が輝き始めた。フォボスは恐慌を象徴し、ダイモスは恐怖を象徴する。その二つの輝きを受けたものは混乱し、逃げ惑うばかりだという。

 ゴリ将軍もまたうずくまり、その戦意を失ったようだ。


 そのゴリ将軍にカセイ参謀長のサーベルが迫る。一刺しでその胸部を貫いた。

 しかし、ゴリ将軍は霧が散るように消えていく。幻であった。ゴリ将軍が霧を操り、幻を生み出したのである。


「実戦で成果を上げたのは私だ。それを忘れてもらっては困るな」


 カセイ参謀長の背後から出現したゴリ将軍が両腕を首元に回し、チョークスリーパーを極める。

 呼吸が困難になる。しかし、こういう時は落ち着いて対処しなくてはならない。ゴリ将軍の腕を掴み、隙間を作る。どうにか呼吸ができた。その一息で転移能力を発動し、その場から逃れた。

 だが、咄嗟にサーベルを離してしまった。だが、ゴリ将軍も得物はない。ステゴロ同士で決着をつけねばならない。


 カセイ参謀長は右手に炎を宿す。火星は炎の星である。左手には冷気を纏わせた。火星は凍土の星である。

 ゴリ将軍もまた腕に筋肉をみなぎらせる。ゴリラの握力は600kg、成人男性の優に12倍だ。殴られたものは即死だろう。


「御子のため、勝たねばならん」


 カセイ参謀長が飛び出た。同時に、ゴリ将軍も出る。


「御子の洗脳を受けているな。許せぬ。殺す!」


 カセイ参謀長の手刀が速かった。その両手が刃と化し、ゴリ将軍の首を斬り裂く。その刹那、カセイ参謀長の手がゆるやかになる。

 殺してしまう。そう思ったら力が抜けてしまった。戦いは迷ったものが負ける。


 ゴリ将軍の抜き手がカオスキラーの装甲をも貫き、その心臓に手が届き、そのまま握りつぶした。グシャリとした音が伝わってくる。


「一気……呵成に……」


 ろくに断末魔の口上もできないままにカセイ参謀長は事切れる。

 それと同時にゴリ将軍はハッとなった。


「まさか、私もまた洗脳されていたというのか。

 御子と総統、その洗脳が強い方が勝っただけに過ぎない……」

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