過去の話
彼の視線に目を合わせるように屈むと、話しかけた。
「無事に帰ってきたんだな。でも、この辺りももう危ないぞ。一人で出歩かないようにな」
それだけ言うと、市庁舎に向けて歩きだした。それから息子との再会が十数年後になるとは思いもせずに。
ついに隣国が堕ち、世界帝国と国境が隣接することになった。抗戦か降伏か世論は揺れる。それは終わることがなく、また不毛な議論であった。
父は抗戦派であった。徹底的に抵抗し、国土と国民を守らなければいけない。世界帝国は悪魔の軍勢なのだから。それが彼らの主張である。
対して、卓逸は降伏派である。彼我の戦力差はハッキリしているのだ。遅かれ早かれ、敗けることはことは目に見えている。ならば、有利な条件で降伏できるタイミングで降伏すべきだ。
「隙を見せたら、そこを突かれるだけだ」
降伏に向けて動いている卓逸に、父はそう言って怒鳴りつけた。だが、市が降伏のために動くことは議会で決まったことだ。もう変えられない。
卓逸は逃げるように家を出たのだった。
そして、自分の目算が甘かったことを嫌というほど味わわされることになる。
降伏の調印に向かった先で、使節団は監禁された。そして、自白剤を飲まされ、市の軍事機密を喋らされる。
その情報をもとに、世界帝国の軍勢は的確に市の占拠を進め、瞬く間に侵略が完成された。卓逸たちが条件として認めさせようとした自治など程遠い圧政が始まる。
女子供は好き放題に拉致された。遺伝子情報をもとに選ばれた女たちは人工授精を施され、世界帝国の有力者の子を宿らされる。子供たちは洗脳され、改造され、兵士となるよう教育を受けさせられた。
やがて、拓磨が拉致される。そのことを卓逸はモニター越しに知ることになった。
卓逸は懇願する。拓磨を解放することを。その代償として、卓逸の財産は接収され、自身もまた
それ以降、彼もまた朦朧とした意識の中で世界帝国のために戦い続けてきた。
いつのことだっただろうか。拓磨という藁兵の活躍を耳にしたのは。
功績を上げる拓磨という男の話が耳に入るたびに、卓逸の朦朧とした感性は生気を取り戻していった。そして、ついに正気を取り戻す。
意識をハッキリさせた卓逸は、拓磨がアビ教官の庇護のもとに活動していることを調べ上げた。自身の兵舎にアビ教官が訪ねたのを機に彼女に声をかける。
「あなたのもとにいる
アビ教官は卓逸が拓磨の父だと気づいたのだろうか。だが、探していた駒が見つかったことに、ほくそ笑んだ。
やがて、卓逸はアビ教官に召喚されることになる。そして、黒い鎧兜が支給された。
「あなたには
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