三つ巴始まる

 ブラックカオスレンジャーロボから脱出した拓磨はカオスファイヤーの変身を解き、藁兵+5ストローマンプラスごの姿に戻った。

 補助装置アタッチメント蔦蛇ワイヤーバイパーに切り替え、近場の柱を掴む。そこに自分の身体を引き寄せ、どうにか軟着陸した。


 そこに近づくものがあった。機械の音声で喋る謎の戦士、カオスシャドーだ。カオスシャドーは拓磨に近づくと、掌底を叩き込む。拓磨の身体は宙に浮き、吹き飛ばされた。


 ダダダダダダダダッ


 そこに銃弾が撃ち込まれる。カオスシャドーはその瞬間に刀を抜き、銃弾を弾いた。彼に助けられたのだ。


「ありがとう」と拓磨が声をかけると、いつも通りの機械音声が返ってくるはずが、ザザ……ザザ……と雑音が返って来るばかりだ。だが、おかしいのはカオスシャドーではないと気づく。拓磨の耳がおかしくなっているのだ。

 しかし、それはすぐに収まる。正常な音の世界が戻ってきた。

 とはいえ、これは不安要素だ。思えば、かつてジャンク街で耳を交換し、そのまま使用している。いつガタが出ても不思議ではない。


 しかし、今は戦場だ。戦いに集中する必要があった。

 銃弾を撃ち込んだのは何者か見回す。言わずと知れた、イエローイレギュラーであった。


「うーん、やるじゃない。銃弾が効かないなんて! でも、これならどう?」


 イエロイレギュラーの五指が開き、レーザービームが放たれる。これはさすがに刀で弾くことはできない。

 拓磨とカオスシャドーはその攻撃をどうにか避ける。


 だが、違和感があった。攻撃が単純過ぎる。それに、わざとらしくイエローイレギュラーが姿を現すだろうか。

 拓磨はブレスレットを発動する。


「変身!」


 拓磨の全身が燃え上がり、カオスファイヤーへと変身した。そして、カオスシャドーの背後にレプリカブレードを突き立てる。


 ザシュッ


 手応えがあった。その場に、グレーが転移して現れていたのだ。

 拓磨の一撃はグレーの胸の装甲を切り裂いている。だが、装甲を削っただけで、致命傷には至らない。


「なぜバレた? いや、読んでいたな。いい加減、付き合いも長いか」


 グレーは不敵に笑った。もはや、どう行動するか読めない。


「攻撃ニ集中シロ。オ前ヲ傷ツケサセハシナイ」


 カオスシャドーは拓磨を守るように刀を抜いていた。正眼に構えて、刀の軌道を震わせ隙を隠す。

 奇妙な頼もしさがあった。拓磨はかつてこの男に会ったことがあるのだろうか。カオスシャドーに守られていると安心感がある。


 一進一退の攻防が始まった。

 拓磨がグレーに攻撃を仕掛けると、グレーは転移して避ける。イエローイレギュラーが攻撃すると、カオスシャドーが刀で弾いた。グレーの攻撃は拓磨が見抜き、カオスシャドーの攻撃はイエローイレギュラーに封殺された。

 互いに決め手がないまま、時間だけが過ぎていく。刻一刻と状況は変化しているはずだ。互いに焦りが見え始めた。


 ザッザッザッザッザッ


 いつの間にか周囲に藁兵ストローマンの群れに囲まれる。転移してきたのだ。この場所に転移装置が仕込まれていたのだろう。

 出現すると同時に銃口を向け、四人の戦士たちを襲った。

 イエローイレギュラーは跳び上がり、グレーは転移して銃撃を回避する。だが、間の悪いことに拓磨はグレーの攻撃に備えようとしていたところだった。避けきれない。

 そこに、カオスシャドーが飛びかかる。拓磨を庇うように銃弾を受けつつ、囲いの外まで跳躍した。


「あんた、なんでそんな……」


 拓磨にはカオスシャドーがなぜ自分を庇うのかわからない。


 藁兵の奥に、藁兵たちを率いる指揮官が現れる。ニンギョウ参謀長だった。人形のような仮面をかぶり、その奥から拓磨たちを鋭く観察する。


「へえ、四匹もいるのね。いいじゃない。これなら、キルスコアを稼げるというものね」


 その言葉にはニタリとした笑みを見た思いだった。だが、ニンギョウ参謀長の仮面はポーカーフェイスを貫いている。

 三つ巴の戦いは始まっていた。

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