キング・ハリド軍事拠点

 彗佐せっさ拓磨たくまは輸送機に乗り、中東の軍事拠点、キング・ハリドに向かった。藁兵ストローマンであった頃は貨物扱いであったが、現在では士官としての扱いとなる。お陰で快適な空の旅であった。

 カオスレンジャーのほかの面々とは現地での集合となる。


 灼熱の陽差しが照りつける。カラッとした砂漠のような気候を予想していたが、それに反して、じめっとした西風が届いていた。どこか日本の夏の暑さにも似ている。


 すでに、北アメリカ大陸は完全に奪還され、アフリカ、ヨーロッパの戦線も縮小している。中東は残された数少ない大規模な領土の一つだった。

 そして、キング・ハリドには異能士官アウターマン兵士ストローマンたちが大量に集められている。その采配には攻勢に出るべきか守勢に入るべきか、決めあぐねているシシ参謀総長の迷いが見て取れた。ゴリ将軍は戦う姿勢を崩さなかったため、その反動とも思われる。あるいは、すでに全面的な撤退を考えているのかもしれない。


「ここにカオスイレギュラーズが出現するというのか?」


 拓磨が基地の責任者にあいさつに向かうと、その場にはアビ教官がいた。せっかくなので疑問をぶつける。

 すると、いつものように見下すような笑みを向けて、返事をした。


「その通りよ。でも、正確には少し違うかも。もう出現した」


 その言葉の直後、警報が鳴り響く。基地を敵が襲ったのだ。俄かに周囲が慌ただしくなる。

 拓磨もまたいても立ってもいられなくなった。


「それを早く言えよ! どこだ? どこに現れた?」


 アビ教官に詰め寄る。しかし、彼女は平然としていた。


「だって、今気づいたもの。というか、今現れたんじゃない。

 それに、現れた場所はあれ。モニターに出てるでしょ」


 その視線の先にはモニターがあった。実に単純なことであったが、悠長にしている暇はない。モニターを確認すると、矢も楯もたまらずに駆けだした。


「そんなに慌てることかしら。カオスイレギュラーズなんて、本当の敵じゃないんだから。まったく、物事というものが見えていないのね」


 拓磨が去った後も、アビ教官は悠然とした態度を崩さない。

 モニターを眺め、戦局を見極めていた。

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