出陣要請

 本来の地球オリジナルアース侵略の会議が始まる。過去の会議ではある意味で中心人物だったカセイ参謀長はもういない。

 それでも、会議は進む。議題はまずゴリ将軍の進退問題が上がった。


「ゴリ将軍、あなたが進退を、いえ自身の生死を賭けて行った作戦ですが、失敗しましたね。カオスイレギュラーズは倒せず、優秀な異海将校アウターマンを二人も失いました」


 いつもは将校を労う御子のアイが淡々と事実を突きつける。蒼色が鮮烈なチャイナドレスを着ていた。

 マイに至っては、明らかに不機嫌な様子が見て取れる。白いリボンの目立つブラウスを纏い、その上から紺色のワンピースで身を包んでいた。その機嫌とは裏腹の、お嬢様然とした爽やかな装いだ。


「おかげでアメリカの基地は完全に放棄することになったのよ! 事の重要さ、ゴリ将軍ならわかるでしょ。このままだと、本来の地球オリジナルアースの領土のほとんどを失うことになる。責任は取ってもらわなきゃいけないのよ」


 その言葉をにこやかな笑顔の奥に冷たい眼差しを宿したモコが受ける。細かく作りこまれた刺繍が印象的な空色のカフタンドレスを身に纏っていた。


「アハハー、ゴリ将軍はしばらく謹慎ですよー。皇帝居城にお部屋を用意したので、しばらく大人しくしていてくださいねぇ」


 だが、最後にアイは優し気な視線をゴリ将軍に向ける。


「また、いずれゴリ将軍の力を借りることになります。今は英気を養っていて」


 アイの言葉を受けつつ、ゴリ将軍は退場していった。

 そして、マイが残された幹部たちに宣言する。


本来の地球オリジナルアースへの進行軍の司令官はシシ参謀総長に勤めてもらいます。シシ参謀総長、異論はないのよね」


 その言葉を受けて、シシ参謀長が恭しくその意を受け取った。


「ははっ、その大役、勤め上げてみせましょう」


 本来なら栄転というべき役職ではあるものの、状況が状況である。彼の役割は敗戦処理にほかならない。それを受けるなど、彼の経歴に傷をつけることになるが、それでも誰かが役割を受け入れねばならないのだ。

 シシ参謀総長はゴリ将軍の死地へ赴く姿を見て、自分がその役割を担うのだと覚悟していた。そして、彼の失脚の際、自ら志願したのだ。


「それで、ゴリ将軍のもう一つの役割だけど。カオスイレギュラーへの対抗するという役割。これは、アビ教官に担ってもらいますねぇ」


 次いで、モコが新たな宣言をする。これには幹部たちもざわめいた。

 幹部会議にも出席していない、準幹部級ですらないものが抜擢されたからである。そして、その場に現れるものがあった。マゼンタのロングボブに、筋肉質な肉体を紺色のラバースーツで隠した女性。アビ教官その人である。


藁兵+5ストローマンプラスご彗佐せっさ拓磨たくまが集めたカオスイレギュラーズの欠片を元に、トケイ技官長指揮下の技術陣によってその力を復元した特殊服スーツが開発されました。それを装備した五人の戦隊にカオスイレギュラーズの抹殺を担わせます」


 アビ教官の言葉に周囲のざわめきが大きくなる。

 それを止めるように、トケイ技官長が立ち上がり、言葉を綴った。


「アビ教官の言葉通り、我ら技官たちが力を尽くして生み出したスーツです。当然、そのスーツの性能はオリジナルを凌駕したものにパワーアップしております。カオスイレギュラーズなど鎧袖一触で撃ち滅ぼせましょう」


 ざわめきが歓声に変わる。

 さらに、戦隊の構成が伝えられると、歓声はざわめきに戻った。


「ほとんどの隊員が優秀な経歴の持ち主であることはわかった。けれど、アビ教官、あなたが藁兵ストローマンである拓磨くんの下につくのはおかしくないか。彼が有能なことはわかるが、序列通りのポジションにすべきだと思うが……」


 そう発言したのはニンギョウ参謀長だ。人形を愛する神経質な軍人だった。

 それに対して、アビ教官が言葉を返す。


「カオスレッドを模したスーツはテスト期間中に何度か試着させようとしました。しかし、適合するものはおらず、大抵のものはその負荷により負傷するか廃人となりました。

 耐えられたのは拓磨だけなのです。彼にはかつてカオスレッドと身体を交換した経験があります。そのために適合者は彼だけなのです」


 それ以降、反論するものは現れない。これを好機と見て、アビ教官は御子に訴えかける。


「カオスイレギュラーズの行動は予測可能です。

 今こそ、新戦隊カオスレンジャーに出撃の許可を」

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