大混戦

 カオスイレギュラーズは5人。対して、異海将校アウターマンは3人。圧倒的に不利である。


「戻らなきゃ。俺が人数不利を補うんだ」


 水鳥の異能士官アウターマン、アビ教官に抱きかかえられながら、彗佐せっさ拓磨たくまがわめいた。そんな彼をアビ教官は冷たい目で見つめる。


「あなたが行ってもどうしようもないのよ。身の程をわきまえたらどう?」


 辛辣な言葉だったが、正論でもあった。拓磨はあの中に入れば最弱。ただ、やられるのを待つ存在にしかならない。

 力量は上がっている。改造が進み、取れる手段は増えている。多種多様な技を得ていた。それでも高みに届きはしない。


「それに、味方の増援ならいるでしょ」


 アビ教官が指さした場所に紫色の戦士がいた。富士の火口で呼び出された異海の支配者アウターゴッド、カオスバイオレンスだ。

 ただ、拓磨はカオスバイオレンスに攻撃を受けたことがあり、シャシン親衛隊長を葬ったのも彼の攻撃によるものだった。正直、何の信用も抱くことができない。


――キヒヒヒヒヒヒヒ


 不快な笑い声を上げながら、カオスバイオレンスは戦場に向かった。

 そして、カオスレッドの元まで行く。技を仕掛けようとする彼を止めようなんてものはいるはずもない。カオスレッドを上下逆さまに抱え上げると、脳天から地面に叩きつける。恐るべき必殺技、ブレーンバスターであった。カオスレッドの脳天が砕かれるほどの威力である。


「やるじゃないか」


 あれほどの技を喰らいながらも、カオスレッドは頭をコキコキと鳴らしただけで、平然と立ち上がった。そして、カオスレッドもまた技を掛ける。カオスバイオレンスを前転させるように抱え上げると、自らの体重もろとも頭上から叩き落す。

 なんという秘技であろうか。これぞパイルドライバー。さしものカオスバイオレンスも脳天を砕かれるほどの超威力である。


 だが、カオスバイオレンスも立ち上がる。カオスレッドとカオスバイオレンスによる技の応酬が始まった。時に周囲を巻き込むような動きをしつつ、その戦いは熾烈を極める。

 とはいえ、その周囲もまた超常的な戦いを繰り広げているのだ。


 ゴリ将軍はグレーの超次元闘法にその筋肉によって対抗する。ペンチ師団長は竜巻によりブルーを上空に追いやり、イエローイレギュラー相手に立ち回っていた。

 そして、カセイ参謀長の相手は時を操る剣の達人ブラックである。


「その方、なかなかの技量と見た。流派はあるのか」


 ブラックは刀を正眼に構えていた。剣先が真っ直ぐにカセイ師団長の目線を捉えている。正眼は相手がどう出ても対処のできるバランス重視の構えだ。

 対して、カセイ参謀長は盾で身を守りつつ、グラディウスを水平に構えている。グラディウスは斬撃にも用いられる剣であるが、それを捨て、突きに特化せているのだ。


「答える義理はない」


 カセイ参謀長はブラックの問いをただ斬り捨てた。

 相手の出方を窺うようなブラックに対し、カセイ参謀長には必殺の策がある。それが戦いの趨勢をどう決めるというのか。


 ブラックが動いた。いや、動いたといえるのか。

 ブラックの静逸な構えが時の動きを緩める。ゆっくりになった時間の流れをブラックだけが知覚できるのだ。その流れの中で、刀を振るい、カセイ参謀長の首を斬り落とす。そのつもりだった。

 しかし、妙だった。身体が重い。緩やかになった時の流れにより空気の抵抗が増すのはいつものことだ。だが、それ以上に体が重いのだ。


――これはまさかカセイ参謀長が重力を増加させているのか。


 そう気づいた時には、すでにカセイ参謀長の剣閃がブラックを襲う。咄嗟に受け立ちし、心臓への直撃は避けたものの、肩を貫かれてしまった。もはや、今まで通りに剣を振るうことはできないだろう。


「ブラック、助太刀しよう」


 いつの間にか、背後にブルーが現れていた。その状況にカセイ参謀長は笑う。


「カッカッカッカッカッ。

 構わん。我が名はカセイ。火星は軍神マルスの名を冠する星。集団戦においてはゴリ将軍に譲ろう。師団長としてはペンチ師団長がナンバーワンだ。だが、こと個の強さにおいては私こそが異海将校アウターマンの中で最強という自負がある。

 かかってこい! 一気呵成に蹴散らすのみ。二人同時であろうと受けて立つ!」


 二つの光球が現れていた。光はまるで衛星のようにカセイ参謀長の周囲を回り、ブラックとブルーを牽制するかのような動きを見せる。

 カセイ参謀長はこの状況に感情を滾らせていた。

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