アメリカ軍

 バージニアのノーフォークまで移動する。兵卒である以上、もう一つの地球アナザーアースでの移動は過酷なものだ。彗佐せっさ拓磨たくまは貨物のような雑な扱いのまま、基地のある地点まで運ばれてきた。


「君が拓磨くんだな。活躍は目にしている。実際に会えて嬉しいよ」


 ゴリラの顔をした将校に話し掛けられた。話に聞くゴリ将軍だろう。その重低音の渋い声色には、なぜだか安心感を抱いた。

 だが、急なことで拓磨は慌てる。いきなり、英雄に話しかけられるなんて予想できるものではない。


「は、はい。ゴリ将軍とお会いできるとは夢にも思わず……」


 拓磨はどうにか言葉を返そうとするが、それに対し、「ハハハハ」とゴリ将軍は姿を翻していった。

 男が惚れられる男とはああいう男を言うのだろう。僅かな時間であったがそんな印象が残った。


「あの男はいつもああなのだ、気にすることはない」


 続いて声をかけてきたのは、神経質そうな奇怪な男だ。星の地表を思わせる刺青タトゥーが顔に施されており、耳には赤い星のピアスが揺れている。顔以外の全身はフルプレートで身を守っていた。

 カセイ参謀長だろう。この戦いはどうやらビッグネームが多数参加しているらしい。

 それもそのはずだ。ここ、ノーフォーク基地はアメリカ海軍の最大の基地。カオスイレギュラーズやアメリカ軍に基地を奪い返され続けているもう一つの地球アナザーアースの世界帝国において、唯一の残されたアメリカ合衆国の大規模基地なのだ。


「は、はい、そうなんですね」


 カセイ参謀長ほどのスター軍人に対して、そう答えるのがやっとだった。

 だが、そんな時に轟音が響く。


 ドドドドドドドド


 アメリカの空軍が現れていた。基地に爆撃している。


「現れたのは雑魚です。もう対処済みですよ」


 カセイ参謀長がにたりと笑った。

 その言葉から予見されていたのか、竜巻が出現し、戦闘機をことごとく巻き込み、いずこかへと消えていく。

 なんともあっけないが、アメリカ空軍が敗北していた。


「フフ、素晴らしい。出てきてください、ペンチ師団長。

 名高き藁兵+5ストローマンプラスごの拓磨くんがいるぞ」


 カチッカチッ


 その言葉に反応して現れたのは、大柄な異海将校アウターマンである。筋骨隆々なその体型が印象的だった。顔がペンチ状に変態しており、両腕が強靭なペンチ状に変化している。すでに異能士官アウターマンとしての資質が見て取れた。

 彼こそ天変地異を操ると伝え聞くペンチ師団長だろう。彼がいる限り、アメリカの軍勢など、物の数ではないのだ。


「ですが、二陣がありますぞ。本来は波状攻撃のつもりだったのでしょうが、もう一陣は片付けてしまいましたな」


 ペンチ師団長の声は実直な軍人であることを思わせる。

 そして、その言葉通りに、アメリカ軍の戦車部隊と歩兵部隊がノーフォーク基地に迫っている。海軍も参戦する予定があったのかもしれないが、ペンチ師団長の能力により海は大荒れであった。現れる気配はないし、現れたとしても戦える状況でもない。


「アメリカ陸軍は藁兵ストローマンどもが止めるぞ」


 そう宣言したのはゴリ将軍だ。

 彼は基地の屋上に立ち、藁兵たちを見下ろすと、軍服の胸元を開いた。はち切れんばかりの胸筋が露わになる。両腕でその筋肉を叩いた。ドラミングだ。


「ウホッウホッウホホホホホッ!

 あんな軟弱な軍隊に何ができようか。お前たちは世界帝国の選りすぐりの兵どもだ! あんな奴ら物の数ではない! 力を見せよ! 破壊を尽くせ! 勝て!

 貴様らにならできる! 貴様たちこそが最強だ!」


――ウオォォォォォォォォッ!


 藁兵たちが鬨の声を上げる。洗脳され、薬漬けの兵士たちだというのに、ゴリ将軍の言葉に触発され、士気が上がっていた。これこそが、ゴリ将軍の能力。誰もが、ゴリ将軍に夢中になり、そのために死力を尽くすのだ。


 士気の上がった藁兵たちが戦車隊に突撃する。集団で戦車にまとわりつき、戦車を行動不能に破壊し尽くした。ある場所では戦車の運転手を引きずり下ろし、ある場所では数人がかりでひっくり返していく。

 戦車に踏み潰される藁兵や砲撃で吹っ飛ぶ藁兵もいるが、大勢いる藁兵の一人に過ぎない。

 ましてや、歩兵部隊など相手にもならなかった。藁兵の前に蹂躙されるばかりだ。


 アメリカ軍など力で抑え込める。では、カオスイレギュラーズはどうか。

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