混沌のままに

 彗佐せっさ拓磨たくまがグレーと激闘を繰り広げる中、シャシン親衛隊長はブルーの攻撃を受けていた。カオスバイオレンスを気にしているのか、あくまで遠距離からの攻撃であるが、牽制には十分である。拓磨のフォローに入れないままに無為に時間を過ごしている。


 ブルーの懸念は当たっていたのだろう。急にカオスバイオレンスが立ち上がり、奇怪な笑い声を上げ始めた。


――キヒヒヒヒヒヒ


 そして、そのまま空中に浮かぶと、ブルーの元まで飛んでいく。ブルーは光線を放ち距離を取ろうとするも、カオスバイオレンスに当たると光線は凍り付き、無残にも砕けてしまう。ついにブルーの懐に潜り込み、その体を掴んだ。カオスバイオレンスの冷気がブルーの肉体の変換を許さない。


 フリーになったシャシン親衛隊長は少し迷う。危機的状況にある拓磨に助太刀するか、カオスバイオレンスとともにブルーを叩くか。

 ブルーに攻撃することを選んだ。安全策である。命の危機に直面し続ける軍人だからこそ、安全を取れる場面では安全を取らねばならない。失敗の代償は死である。安全を取れないものは生き残れない。


 だが、この時ばかりはその判断は誤りだった。

 カオスバイオレンスは背後から掴んだブルーの肉体を状態を逸らした地に向ける。弧を描くような動き。それはジャーマンスープレックスであった。だが、この場は空中である。一体、地面でなくどこにぶつけようというのか。

 ちょうど、現れたのがシャシン親衛隊長であった。ブルーの脳髄とシャシン親衛隊長の脳髄とが凄まじい衝撃で激突し合う。


 ガガーン


 その破壊力はどれだけだっただろうか。

 ブルーはその威力により、自身をまとめる力を失ったのか、消滅していく。

 シャシン親衛隊長はそのまま脳震盪を起こし、やがて力尽きた。


「えっ、ちょっと、なんですか。同士討ちじゃないですか!?」

「シャシン親衛隊長がやられちゃったじゃない! 親衛隊に彼女の代わりになる人いないでしょ!?」

「アハハー、大丈夫よぉ。シャシン親衛隊長は新しい肉体を得て蘇るんだから!」


 モコの言葉通り、肉体の暴走が始まる。


「あああああぁぁぁぁぁぁ! か、身体があ、膨張するぅぅぅ。い、痛いぃぃ。ひしゃぎぃぃいぃい!」


 その苦痛を共にシャシン親衛隊長の肉体が膨れ上がり、巨大化していく。ゴスロリ衣装も肉体の一部である。衣装ごと巨大化した。

 その姿は富士の火口を跨ぐほどに膨らんでいる。


「よし、カオスイレギュラーロボだ」


 写真の呪縛から自由になったカオスレッドが宣言する。リングから螺旋の連なった機械を出現させた。

 それにブラックが異を唱える。


「すでにブルー殿はなく、グレーはあの有様、どうされるのじゃ」


 それに対して、イエローイレギュラーが明るい言葉をかけた。


「そんなの、どうにかなるよ。とにかく、やってみようよ。

 こちら、イエローイレギュラー、黄色の戦闘機イエローイーグルの投入を願います」


 イエローイレギュラーがイエローイーグルを呼び出すと、ブラックもそれに従い時の黒牛ブルブラックを出現させる。

 懸念だったグレーライオンだが、自動的に呼び出され、暴走するグレーを回収して、そのままに富士の頂上付近を走っている。


「遅れた。大気圏外でエネルギーを持った仲間たちを集めていたのだ」


 空からブルーが降りてくる。その姿はすでに巨大化しており、背中に翼が生えていた。


「やってみれば、こうして仲間が揃うものだ。行くぞ、合体!」


 五体のメカが一身になる。


「これぞ、巨大合体、カオスイレギュラーロボ!」


 しかし、今までの形態と異なっていることがあった。色味がモノクロである。

 グレーがただ一人宣言した。


「完成、カオスイレギュラーロボG。こいつがいれば、百戦無敗よ!」


 その言葉通り、巨大化シャシンの大鎌攻撃も光線攻撃も効果がない。攻撃を受けるたびに液状に変化し、そのまま受け流す。

 まるで暖簾に腕押し、糠に釘だ。奥の手である写真呪縛もカオスイレギュラーロボGの転移能力によって無効化される。打つ手はなかった。


 だが、明後日の方向から攻撃が入る。拓磨だ。

 拓磨には藁兵+4ストローマンプラスよんになったことで得た狙撃能力があった。射程の低さに業を煮やし、+4になった時点で拡張した機能だ。そして、その弾丸として打ち出したのは、マレーバク師団長の能力を応用した悪夢爆弾ナイトメアである。爆風とともに悪夢を見せる効果があった。


「なんだこれは! なんで、お前が!?」


 右脚部を狙撃し、爆破した。それにより、グレーは悪夢に苛まれ、その意識は覚醒の世界にはない。

 操縦不能となったグレーライオンが倒れると、カオスイレギュラーロボの全身が傾き、その頭は富士の火口に突っ伏した。

 機を見た巨大化シャシンにより追撃が入る。かかと落としだ。


 ガァン


 強烈な一撃により、カオスイレギュラーロボの頭部がひしゃげる。そのまま、頭から火口に落ちそうになった。


「なんの、問題はない。飛べ、カオスイレギュラーロボα!」


 ブルーの言葉とともに、カオスイレギュラーロボに翼が生える。空を飛び、その体勢を立て直すと、剣を出現させた。

 ブラックがロボの主導権を得ると、技名を叫ぶ。


「カオスイレギュラーロボ、秘剣、大火山落としじゃ!」


 大上段に剣を構えたカオスイレギュラーロボαが巨大化シャシンに迫る。それと同時に剣を振り下ろした。巨大化シャシンは大鎌で身を守ろうとするが、その剣の軌道についていくことができない。斬り裂かれるのと同時に、火口へと落とされていく。

 火口では落下の衝撃で小爆発が起き、巨大化シャシンはマグマの中に飲み込まれた。


「あ、熱い。痛い。膨らみ続ける。苦しい……。

 せ、せっかく神を呼び出したというのに。このまま、御子の寵愛を受けて、奢侈淫佚しゃしいんてつの日々を過ごすつもりだったのに……!」


 シャシン親衛隊長の断末魔の叫びが山彦のように木霊していた。

 そして、それを眺めるのは、紫色の戦士、カオスバイオレンスだ。


「ふふふ、少しだけど見せてもらったよ、カオスイレギュラーズの力。けど、もうちょっと見守る必要がありそうだね」

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