グレー暴走

 ブルーとカオスバイオレンスの熾烈な戦いは始まる。

 関節技主体で戦うカオスバイオレンスだが、肉体を粒子状に変換できるブルーは圧倒的に優位に見えた。だが、カオスバイオレンスが冷えたオーラを纏い、ブルーの肩を脇で挟み、反対の腕をクラッチする。


「ぐがああああ」


 ダブルリストロックが極まる。ブルーは苦し気な悲鳴を上げた。

 ブルーは発熱によってその形状を変える。冷気を纏ったカオスバイオレンスによって、それが封じられてしまったのだ。

 苦痛に悶えるような呻きを上げながらも、自らの腕を千切り、カオスバイオレットの技から逃れる。その瞬間にテレポートして、距離を取った。剥がれた腕は粒子状に姿を変えつつ、再びブルーの肉体に引っ付く。


 二人の戦いは距離を取るブルーと接近しようとするカオスバイオレンスの互いの駆け引きに移行した。超常の実力者同士の一進一退だが、傍目には膠着状態にも見える。


「ねぇ、あれ、召喚失敗じゃない? もっと強いはずでしょ」

「そうですねぇ。やっぱり、無理やり過ぎたんでしょうか」

「アハハー、でも、戦えてるよぉ。カオスバイオレ、がんばえー」


 御子たちの思惑ではもっと恐ろしい存在が現れるはずだったのだろうか。

 彗佐せっさ拓磨たくまとシャシン親衛隊長もこの場に戻ってきたものの、状況についていけず、また参戦できるような戦いではない。様子を見るほかない。


 そんな時だ。倒れていたグレーがゆらりと立ち上がった。背骨がバキバキに折られ、動くこともままならないはずだ。

 その挙動は今までのグレーとは異なる印象を受ける。どこか鬼気迫るものを感じた。


「グゥアアアッァァァアアアア」


 雄叫びを上げたグレーが跳び上がる。雲もないのに雨が降り始めており、その雨を足場にして、カオスバイオレンスの元まで駆け上がった。

 カオスバイオレンスは面倒臭げな態度で、グレーに技をかける。腕を掴んで背中側に引っ張り、捻り上げた。代表的な関節技の一つ、ハンマーロックが極まる。しかし、グレーの身体がまるで液状であるかのように、ぐにゃりと曲がり、まるで手答えがない。

 グレーはその技を意にも介さずに、異次元よりダガーを出現させ、カオスバイオレンスの喉元を掻っ切った。おびただしい流血。カオスバイオレンスは地に落ちた。


「えぇー、負けちゃうのぉ。だらしないんじゃないのよさあ!」

「いえ、さすがにこれでは終わるはずありません。異海の支配者アウターゴッドですよ」

「ちょっとぉ! 生贄にすらできてないってどういうこと!? 何のために時間をかけて呼び出したのよ!」


 御子たちの注目がカオスバイオレンスの生死に集まる中、グレーはすでに動いていた。

 シャシン親衛隊長の背後に転移し、首筋を狙う。だが、それを拓磨が読んでいた。補助装置アタッチメント重厚盾ヘビーシールドに切り替えて、グレーの一撃を弾く。

 グレーがゴーグル越しに磨を睨んだ。


「オマエキニイラネェエ」


 激しい攻撃が拓磨を襲う。ジャマハダルが重厚盾ヘビーシールドを砕き、ククリナイフが装甲を切り裂く。何本ものダガーを出現させ、そのことごとくを拓磨の身体に突き立てた。


「ぐぅええっえぇぇぇぇえっ」


 拓磨が苦痛の叫びを上げる。だが、負けるわけにはいかない。

 限界を超えるんだ。そうすれば、異海将校アウターマンの力を得られるように思える。

 拓磨は雄叫びを上げつつも、レプリカブレードを振るう。補助装置アタッチメント神経毒噴霧ブフォトキシンに変換した。


「目覚めろぉぉぉおおおおお!」


 自分の潜在能力を信じ、苦痛を忘れてグレーに剣を振り下ろす。グレーは難なく、ダガーで受け流した。

 そのまま、神経毒噴霧ブフォトキシンを放つ。クリーンヒットした。しかし、毒液は液状のままグレーの体内を巡り、吐き出される。グレーの肉体はまるで液体に変換されているかのようだ。


「これはまさか異能戦士アウターマンの力か?」


 もはや、次元転換用の装甲服スーツや肉体の技だけではない。もっと異質なものだ。肉体を液体と化し、液体を操っている。

 それは拓磨の知っている異能だ。今までともに戦ってきた異海将校たち。彼らの能力に近いと感じた。


 巡り巡った毒液ブフォトキシンが拓磨を襲う。神経毒が全身を巡り、今度こそ、完全に拓磨は動けなくなった。

 それでも拓磨は念じる。異海将校に昇格するんだ。そうすれば、こんな毒なんて跳ね返せるかもしれない。


――動け。動くんだ。


 声にならないままに、拓磨は心の中で叫び続ける。

 拓磨は立ち上がった。全身に巡る神経毒をものともせず、数々の傷を耐え切って、その肉体を動かしている。

 それは異能などではなく、ただ、拓磨の精神力によるものだ。


「チッ」


 グレーが舌打ちする。拓磨の全力がグレーを不快にさせているようであった。

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