超次元闘争

「なっ、写真に封じられてないっ!?」


 そう叫ぶシャシン親衛隊長の背後に、二本のダガーを手に持つ灰色の戦士が転移する。

 彗佐せっさ拓磨たくまはその動きに反応し、強化アームから蔦蛇ワイヤーバイパーを放った。グレーの頭を掴み、そのまま地面に叩きつけようとする。

 しかし、次の瞬間にはまたグレーが転移していた。


「あんな空間に閉じ込めようたって、最新鋭の次元転移装置は俺の手にあるんだ。無駄だよ。研究施設もぶっ潰して回ったから、こいつの再現はまだできてねぇだろ」


 そう言って、グレーは自身のスーツを指す。灰色の装甲服スーツに、ライオンの姿をした次元航行艦。グレーは次元航行艦のアシストを受けて自在に、空間を転移することができる。

 その能力を使用してシャシン親衛隊長の写真による呪縛を逃れたのだろう。


「だったら、直接殺して、あんたの盗品を回収するだけ……」


 シャシン親衛隊長は髪に張り付けられた写真の一つを実体化させた。それは大鎌となり、彼女の手に握られる。


「魂を奪い取るのが写真だけとは思わないことよ」


 ダウナーな声質のまま、その緊迫感は増していた。

 シャシン親衛隊長がグレーに切りかかる。それに合わせて、拓磨はチャクラム状になったレプリカブレードをグレーに向けて投擲する。

 グレーは大鎌を弾くと、その勢いのまま宙に舞った。レプリカブレードの軌道を回避したかに見えたが、レプリカブレードは変化する。上空にカーブを描き、グレーに襲いかかった。だが、これも転移により躱されてしまう。


「一応、これはもらっていくよ」


 転移の先はシャシン親衛隊長の懐の内であった。彼女の髪を切り裂いて、カオスイレギュラーズの四人の収まった写真を手にしている。

 そして、シャシン親衛隊長が反応する直前に再び転移して消えた。


「セオリーだと、能力を使った奴を倒しゃあ、元に戻るんだけどな」


 探りを入れるようにグレーが発言する。それに対し、シャシン親衛隊長がニタリとした笑みを見せた。


「やってみればいいんじゃない。もう二度とあいつらは写真から元に戻らないから……」


 その言葉をグレーは一笑に付した。


「ブラフだな。ま、試してみようじゃねぇか」


 そう言うと、グレーはまた転移し、シャシン親衛隊長の背後に現れ、彼女の首筋に斬りかかる。

「ワンパターンなんじゃない」

 シャシン親衛隊長の反応も早い。大鎌でダガーを受け、弾き飛ばした。すると、その瞬間にカットラスがグレーの手元に出現し、シャシン親衛隊長の頭部を狙う。シャシン親衛隊長の頭に張り付けられた写真が異空間と化し、カットラスの一撃はすり抜ける。

 超次元の戦いが始まっていた。互いに一進一退の攻防のように見えるが、攻めの数はグレーが圧倒している。拓磨も参戦しようとするが、文字通りに次元が違うため、横槍を入れるタイミングが掴めない。


 そんな中、もう一人の戦士が現れていた。銀色の肌に青い紋様を輝かせている。ブルーだ。


「グレーの次元転移がヒントになった。写真の呪縛の解析は完了。もはや効果はない。この場は任せる。私はあの者たちを止める」


 ブルーがグレーに問いかける。その言葉は御子たちの儀式を指していた。シャシン親衛隊長の喉元にシャムシールを突き立てかけていたグレーの顔色が変わる。


「こっちはお前がやれ。そっちのが面白そうだ。俺がやってやるぜ」


 ブルー、グレーともに、祈祷を続ける御子たちに向かい始めた。


 まずい! 守らなくては!

 拓磨の脳裏が焦燥でいっぱいになる。それは不思議な感覚だった。いずれ対峙する存在だと感じていた御子たちに奇妙な愛着を抱いている。

 一体、なぜそんな感情を持っているか、自分でもわからなかった。

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