呪縛の写真

 御子たちの祈祷が続く中、拓磨は空気が変わるのを感じた。幾度となく交戦した経験から、カオスイレギュラーズの気配というべきものを感じ取れるようになったのだろうか。

 第六感と呼ぶべき感覚は五感が感じ取る僅かな察知の積み重ねで起きるものだという。勘とは脳の計算が最適化され、思考を経ずして結果だけを知覚することだという。その直感は説明の付けられないものだったが、確かな感覚でもあった。


「シャシン親衛隊長、敵が来ます。おそらくカオスイレギュラーズ……」


 その言葉に、ゴスロリ衣装に暗黒メイクの女性士官、シャシン親衛隊長がハッと反応する。


「レーダーに反応はまだないはずだけど。……えっ!? 反応が消えてる!

 みんな、臨戦態勢を取りなさい。ボクの合図とともにバリアフィールドを展開すること!」


 彼女の指示により、藁兵ストローマンたちにも緊張が走る。

 そして、次の瞬間に頭上からカオスレッドが降ってきた。


「ハッハッハッハ、お前たちの悪事はお見通しだ。おとなしく潰されるんだな」


 落下とともに、カオスレッドのリングブレードが鞭状にしなり、藁兵たちを蹴散らしていく。だが、四方に配置された藁兵たちがバリアフィールドを展開すると、青白い光が周囲を包んだ。光がカオスレッドの侵入を阻む。


「ふん、猪口才な!」


 カオスレッドはリングブレードに熱を集める。リングブレードが赤く光り始めた。


 ブブゥゥゥゥン


 一方、富士山頂を登る車両があった。ブルドーザーの専用道“ブル道”を通って、イエローイレギュラーの大型バイクが走ってきている。

 バイクのフロントからは砲塔が伸び、後部座席のあるべき場所にはミサイルポッド設置されていた。


「ぶっ放します!」


 青白い光が空中に集まってくる。その光が銀色の肉体に青い紋様を宿した戦士が出現した。ブルーだ。

 ブルーは腕を交差させ、光線のエネルギーを溜める。


「状況、理解しました。三人のエネルギーを収束し、ぶっ放しましょう」


 その言葉とともに、三人の挙動が一致した。

 カオスレッドがリングブレードの高熱を解放し、イエローイレギュラーがバイクの砲弾とミサイルを一斉に発射し、ブルーが光線を打ち出す。

 三者三様の必殺技がバリアフィールドを襲い、そして吹っ飛ばした。


 御子が露わになる。何としても守らなければならない。つい、そんな意識が拓磨に働いた。だが、次の瞬間にカオスイレギュラーズの三人は消えた。


 パシャパシャパシャ


 シャッター音の響きとともに、カオスレッドもブルーもイエローイレギュラーも消える。それとともに、ほくそ笑むのはシャシン親衛隊長だ。

 彼女の銀髪に張り付けられた写真の中に、三人の姿が見て取れた。写真であるにも関わらず、それぞれが動いている。まるで、写真の中に閉じ込められたかのように。

 これこそがシャシン親衛隊長の能力。彼女の眼力がカメラとなり、見たものを自分の写真の中に封じることができるのだ。


「時間稼ぎさえしてもらえれば、十分なんだよね」


 シャシン親衛隊長は勝ち誇ったように呟いた。

 それを目の当たりにした拓磨は自身の剣を構えると、シャシン親衛隊長に向かって、駆け出す。そして、シャシン親衛隊長が反応する前に、彼女を突き飛ばした。


 ガキィン


 拓磨のレプリカブレードが黒い刃を受け止める。この瞬間に、ブラックが時空の彼方から出現していた。拓磨は状況的にブラックの行動を読み、シャシン親衛隊長を庇って、ブラックの攻撃を受けたのだ。


「ふふっ、さすがじゃの」


 ブラックの称賛の声が聞こえる。だが、次の瞬間にはブラックの必殺の一太刀が頭上から迫った。拓磨は補助装置アタッチメント重厚盾ヘビーシールドに切り替えて、受けようとする。間に合うだろうか。


 パシャッ


 シャッター音が響き、ブラックが姿を消した。それにより拓磨は命拾いする。寸でのところで、シャシン親衛隊長に救われたのだ。


「まあ、お互いに貸し借りなしのイーブンって感じかしらね。カオスイレギュラーズなんて、ボクたちのタッグなら完封だね」


 シャシン親衛隊長が勝利を宣言する。それに異を唱えるものがいた。残ったカオスイレギュラーズであるグレーだ。


「けっ、冗談じゃねえ。俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」


 次元の歪みとともに、姿を現す。両手に握られたダガーがシャシン親衛隊長を襲う。しかし、声のする方に反応すればいいだけだ。

 パシャリ

 シャッター音が響く。グレーもまた消えた。そう思えた。

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