富士火山噴火作戦!?

 彗佐せっさ拓磨たくまは今回の侵略軍と合流した。その責任者は師団長ではなく、親衛隊長である。


「あんたが拓磨くんね。ボクは御子の親衛隊長を務めているシャシン。今回はボクたちと一緒に御子を護衛してもらう。活躍を期待しているよ」


 シャシン親衛隊長は女性だった。その口調とは裏腹に、声にはダウナーな響きがある。

 ひらひらした帽子にスカーフ、スカートを身に纏っている。全体的に黒色でシックにまとめられた服装は、典型的なゴシックロリータファッションである。長いまつ毛に深紅の唇。その顔には陰鬱で病的な印象を抱かせるダークなメイクが施されていた。

 そして、その長い銀髪には所狭しと写真が張り付けられているが、その写真がどんな内容なのかは目を凝らしてもわからない。


 シャシン親衛隊長に案内され、本来の地球オリジナルアースへと次元転移する。そこは富士五合目であった。数多くの藁兵ストローマンたちがその場に待機しているが、一際目立つのはその奥の店でうどんを啜っている三人の女の子たちだった。彼女たちが総統の御子なのである。

 拓磨は緊張とともに殺気を抱く。いずれは打ち倒さなければならない相手かもしれないと思っていた。


「失礼ないようにね」


 ダウナーな声色のまま、シャシン親衛隊長が告げる。その声に気づくと、御子たちが一斉にこちらを見てきた。

 一人は巫女のような朱色の袴と白衣を身に着け、もう一人はシスターのような黒衣を纏い、最後の一人はファラオのような煌びやかな衣装に身を包んでいる。


「ふふ、いらっしゃいましたね、拓磨さん」

「……あれが、拓磨……」

「アハハー、拓磨くん、会えて嬉しいよぉ。よろしくねー」


 なぜか、三人中二人が友好的な雰囲気だった。残るシスターの服装をした御子だけは複雑そうな表情をしている。

 どうしてそんな態度を取られるのかわからない。もしかしたら、誰に対しても、そんな風なのかもしれないけど。


 不思議に思いながらも、作戦の準備を進めた。

 まずは一時間ほど様子を見る。異能士官アウターマンや藁兵の肉体は強化されているが、生身に近い御子たちがいるからだ。まずは高地の空気に慣れる必要があった。

 そして、駕籠の用意である。御子たちは藁兵が駕籠に乗せて進む。そのために、快適な空間を駕籠の中に用意する必要があった。


「あなたのお父様のこと、覚えていますのよ」


 巫女の服装をした御子が話しかけてきた。拓磨はその声を聞き、ギクリとする。藁兵となり薬物中毒にされた時に封じられた記憶が甦ってきた。

 それは思い出したくない過去であり、人から触れられたくない記憶だった。


「父のことは一族の恥だと……思っています」


 拓磨は絞り出すようにそう答える。

 それを聞き、巫女の御子はキョトンとした表情をした。

 その顔を見た時、何か違和感があった。しかし、なぜそんな感覚を抱くのかまではわからない。


 時間になると行軍を始める。階段や急坂の道を進んだ。強化された肉体でなければ、相当な苦難が強いられるものだろう。しかし、この場にいるのは改造兵士たちである。愚痴を言うものもへこたれるものも居はしない。順調に山道を進んでいく。

 砂利で溢れた道で足を取られても、岩の切り崩れた道を登っても、ただ黙々と歩くだけだ。御子の駕籠を運ぶ藁兵の運用にだけは注意する。


 そして、ついに富士山頂に辿り着いた。当然ながら、無人である。

 季節が登山シーズンから外れていることもあるが、それ以上に侵略戦争の真っただ中で登山などという行楽を行うものがいるはずもない。

 無人の山頂に御子たちの祈祷所が設置された。祭壇が置かれ、その周りに奇怪な木像が置かれる。トケイ技官長の指揮で作られたものなのだろうか。どこか不気味で、人を不安にさせる造形だった。拓磨も名状し難い恐怖を覚える。


「一体、何が始まるというのですか?」


 拓磨がシャシン親衛隊長に尋ねた。シャシン親衛隊長はニタァーっとした笑みを浮かべる。


「さあ、何かしらね。富士山を爆発させて、日本列島を真っ二つにでもするのかしら」


 焦点の定まらない不気味な笑顔だった。拓磨はぞくっとしながらも、彼女の言葉の真偽が計れずにいる。

 そんな二人のやり取りを余所に、御子たちの祈りが始まっていた。

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