Another.05 六人目の戦士

異海将校への昇格

 彗佐せっさ拓磨たくまはアビ教官の研究所ラボ内に用意された自室で目が覚めた。また、敗北して戻ってきたのだ。

 自分の中で勝つための何かが積み重ねられていないのだろうか。自分は何か間違っているのだろうか。そんな疑念が湧き立ってならない。

 目覚めたばかりで感情が整理しきれてないのかもしれない。拓磨は剣を取る。迷いを振り切るべく、剣を振ることにした。


 研究所の裏手に回り、ひたすら素振りをする。汗をかきながら、自分の剣筋を確かめた。スピードはまだグレーに及ばない。技はブラックほどに磨けていない。カオスレッドの膂力には到底追い付けない。

 剣を振るたびに、迷いが大きくなっていく。


「一人でしていても、悶々とするだけじゃない」


 いつの間にか、アビ教官が現れていた。マゼンタのロングボブに紺色のラバースーツ。いつものように、見下すような視線で拓磨を眺めていた。

 彼女は落ちていた木の枝を拾うと、獲物を見つけた蛇のように舌舐めずりをする。


「私が相手をしてあげる」


 木の枝を片手で持ち、突き出すように構えると、アビ教官が迫ってきた。拓磨はアビ教官に打ち込むが、木の枝が剣に纏わりつくような動きをし、軌道を変えられてしまう。拓磨の剣は受け流され、木の枝はそのまま拓磨の喉元に突き立てられた。


「まだまだね」

「次っ!」


 何合も打ち合う。アビ教官の得物は木の枝だというのに、その勝率は拓磨よりも上だ。やがて、アビ教官が構えを解いた。


「あなたの昇進が決まったわ。イエローイレギュラーの装甲の破片を手に入れたことを評価されたみたい。次は藁兵+4ストローマンプラスよんね」


 アビ教官は表情を変えないままに淡々と告げる。

 拓磨にとっては嬉しい知らせのはずだが、なぜだか喜べない。自分は本当に昇進に足るだけの力があるのだろうか。頂を見ているせいかもしれないが、目指すべき強さにはまるで到達できていない。

 肩で息をして、うつむいたままの拓磨にアビ教官が追い打ちをかけるように言葉をかけた。


「いつまで藁兵ストローマンのままでいるつもり? 一体、いつになったら異海将校アウターマンに昇格するのよ。もうあなたは藁兵+4になってしまうじゃない」


 その発言に拓磨は困惑する。


「異海将校になるためにはどんな条件があるんだ。このまま評価を得ていたら、異海将校への昇格が決まるんじゃないのか?」


 拓磨の言葉を聞き、アビ教官がため息をついた。


「そんなことも知らなかったのね。それとも忘れているの? 異海将校への昇格は軍部が決定することじゃない。あなた自身が自分の力に目覚めた時、自然に異海将校としての肉体を手に入る。それがあって、初めて異海将校への昇格が成るのよ」


 彼女の説明を聞いても、どうすればいいのか、何もわからない。しかし、拓磨には昇格の条件がまるで足りていないことだけはわかった。

 自分の中に眠っている力があるのだろうか。どうすれば、そんなものが目覚めるのだろう。


「新しい作戦があるわ。今度は御子の要請による出動らしいの。気を張りなさい。自分自身の力に気づくのよ」

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