巨大化マレーバク VS カオスイレギュラーロボα

「でやっ!」


 ブルーが腕を交差させ、光線を放つ。その攻撃はアビ教官の飛行する先を見切っており、正面から受けてしまった。

 咄嗟に空気流を生み出し、威力は弱めたはずだが、それでもダメージは著しい。全身に焼けるような痛みが走り、焦げた臭いが漂う。これは飛行のスピードにも精度にも影響が出る。何よりも痛みが激しい。


「くっ、想像以上に学習するのが速い。出撃は早まったか」


 当初は優勢に戦いを進めていたアビ教官だったが、彼女の特性である三次元の戦闘術はすっかりブルーに上をいかれてしまっていた。アビ教官の動きを学習し、それを超える成長を遂げてしまったのである。

 もはや、逃げを打つ以外の手段がないが、それすらもさせてくれそうにない。アビ教官は死を覚悟しつつあった。


 ドドドドドドドドッ


 そんな時だ。マレーバク師団長の巨大化が始まった。膨れ上がる肉体が遠目からも視認できる。


「これは捨ておくわけにはいかない。勝負は預けた。せいちっ!」


 ブルーはマレーバク師団長の方向に飛びつつ、青いジュエルの嵌ったスティックを掲げた。ブルーの身体が巨大化し、翼が生える。

 アビ教官は取り残されながら、自嘲気味に呟いた。


「味方の死に救われたってわけね。喜んでいいんだか、悪いんだか……」


 その場を駆け抜けるものがあった。

 次元航行艦グレーライオンと時の黒牛ブルクロノスである。


「ブルー殿が我々を避難させていてくれたようだな」


 黒牛の中で、ブラックが状況を把握しつつあった。ブルーはカオスイレギュラーズのメンバーや街の人々を逃がし、その上でマレーバク師団長や拓磨の前に姿を現したのだ。イエローイレギュラーの囮だと宣言したのも、すでに人々が避難していることに疑念を抱かないようにするための二重の罠であった。

 それを理解したのかしていないのか、グレーがぼやく。


「ちっ。あの変なおっさんに助けられたってわけか」


 悪態をつきながらも、どこか嬉しそうな雰囲気もあった。


「ハッハッハッ、皆の者、よくやったぞ。合体だ! 敵に止めを刺すぞ!」


 空からカオスレッドが降ってくる。カオスレッドは指にはめられたリングを起動し、リングは歯車上の巨大な機械に変化する。その機械が歯車を回転させ、巨大ロボへと姿を変えていった。


「へっ、あれ!? もう巨大化してる? なんで?

 あ、えと、敵の巨大戦力が現れました。イエローイーグルの投入をお願いします」


 寝起きのイエローイレギュラーは状況も把握できないまま、鳥型の戦闘機イエローイーグル出動を要請する。イエローイレギュラーの思念に反応して、バイクが彼女のもとまで走ってきた。バイクに乗り込むと、近くのビルの壁を駆けのぼり、イエローイーグルとドッキングする。


 カオスレッドのリングマシーンを中心に、4つの巨大戦力が集まっていた。

 グレーライオンが右足に、時の黒牛ブルクロノスが左足に、ブルーが左腕に、イエローイーグルが右腕となる。5人の力が合わさった巨大メカ、カオスイレギュラーロボが完成した。


 カオスイレギュラーロボが巨大化したマレーバク師団長と相対する。マレーバク師団長の膨張する肉体が飛ぶが、その肉片の一つ一つがカオスイレギュラーロボに接触するたびに爆発する。ダーンダーンと爆発が起きるたびに、空気が揺れ、カオスイレギュラーロボも膝をつく。


「けっ、面白ぇ! 思ったよりやるじゃねぇか」


 膝をつかされたグレーがにやりと笑った。


「私の新しい能力を使おう」


 ブルーが宣言すると、カオスイレギュラーロボに光の翼が生える。そして、翼の羽ばたきとともに宙に浮かび上がった。

 アビ教官との戦いで三次元機動を完全にものにしたため、巨大合体した後でも空中戦が可能になったのだ。


「三次元戦法だ。これぞ、完成、カオスイレギュラーロボα!」


 抑揚のないブルーの声とともに、カオスイレギュラーロボの新形態が出現する。宙に舞い上がったカオスイレギュラーロボは、イエローイーグルから柄が射出され、柄からブルーのエネルギーがブレードとして出現する。


「俺の力も足すぜ」

「わしもじゃ」


 ブレードに灰色と黒のオーラが纏わりつく。


「よし、放とう! カオスレインボーフレア!」


 カオスレッドの叫びとともに、青、灰、黒の三色が混ざり合い、光刃となって巨大マレーバク師団長へと飛んでいく。光刃はマレーバク師団長を両断した。


「爆発で、爆発で、逝きたかった! 能力にかまけて、いつの間にか自縄自縛になっていたというのか! ブフォォオッ!」


 両断されたマレーバク師団長の断末魔の叫びが響く。

 拓磨はその最後の戦いにも参加できなかった。爆発する肉片に阻まれ、念力砲サイコキネシスキャノンの届く位置にも辿り着けなかったのだ。


「くそっ、まだだ。まだ、力が足りない……。

 けれど、足りないものはわかってきた。力を、もっと力を!」

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