藁兵+3拓磨 VS 夢遊病

 イエローイレギュラーは眠った。もう少し遅ければ、弾丸の嵐に巻き込まれ、彗佐せっさ拓磨たくまの命も危なかったであろう。

 しかし、48時間耐久で起きているという、ふざけた行動をしていたがゆえにこの戦いに参加したイエローイレギュラーは、その寝不足によって倒れた。倒れたはずだった。


 悪夢に苛まれるイエローイレギュラーはうずくまり、うなされている。だが、それと同時に、内蔵されていたパーツが開放され、全身を覆った。何重もの装甲が展開し、厚みが増す。防御モードに入ったのだろう。


「なんだあ!? 身を守る意志があるのか? それとも、悪夢に対しての防衛反応か?」


 あとは止めを刺すだけだと思っていた拓磨に、思わぬ難題が振りかかった。この強固な装甲に対応できるだろうか。

 けれど、やるしかないのだ。

 補助装置アタッチメント念力砲サイコキネシスキャノンを充填し、放つ。この攻撃はまるで効果がなかった。装甲の一部をひしゃげさせただけだ。この装甲には念力に対する特殊な対処機能が施されているのだろう。


「ならば!」


 補助装置アタッチメント掘削甲ドリルガントレットに切り替える。ドリルでイエロイレギュラーの装甲を抉った。

 ピキピキ

 ヒビが少しだけ入る。もう一撃。立て続けにレプリカブレードで装甲のヒビを貫いた。パキーンと装甲の一部が砕ける。拓磨はそのパーツを回収しつつ、さらにドリルで攻撃を続けようとした。


 突如、イエロイレギュラーがすくっと立ち上がる。

 馬鹿な。眠っているはずだ。

 唖然としながらも、拓磨はドリル攻撃を放った。だが、急に走りだしたイエロイレギュラーに攻撃が届かない。拓磨は彼女の後を必死で追った。


 速い。追いつけない。

 補助装置アタッチメント蔦蛇ワイヤーバイパーに切り替えると、周辺の建物を掴み、カートリッジを抜き差しして、瞬間移動する。かつて、カオスレッドと肉体を入れ替えた際に使われた技だ。今思うと、自分にヒントを与えたように思えてくる。

 だが、そんなことを訝しんでいる時間はない。イエローイレギュラーに何としてでも追い付かなくては。


 イエロイレギュラーはさらにスピードを上がる。脚部に仕込まれた仕掛けが開き、噴射装置が剥き出しになった。そして、足からジェット噴射して空中に浮かぶ。一目散に飛び去っていく。

 その向かう先がわかった。マレーバク師団長の倒れている場所だ。


「させるかよ!」


 噴射装置を展開させた瞬間に、イエローイレギュラーの肩を掴んでいた。その飛行に引きずられながらも、ワイヤーを縮める。そして、カートリッジを換装する準備を進めた。勝負は一瞬しかない。ワイヤーが消えた瞬間に落下を始めてしまう。

 使用するのは神経毒噴霧ブフォトキシン、ヒキガエル師団長の必殺技を再現した能力である。眠りに加え、麻痺毒を受ければ、さすがにイエローイレギュラーは止まるはずだ。


 切り替え、そして撃つ。その瞬間、イエローイレギュラーの手のひらから銃口が出現し、琢磨が撃つよりも速く銃弾が発射された。拓磨の強化アームに弾丸が撃ち込まれ、毒液は明後日の方向に飛び散る。

 ワイヤーの支えを失った拓磨はそのまま落下していった。


 イエローイレギュラーは加速する。全身に刃が展開されていた。亜音速のスピードで切り裂かれるのだ。マレーバク師団長はもはや生き残れまい。


 ズシャン


 轟音とともに、日本中で目覚めが始まる。作戦は失敗だ。

 だが、それだけでは終わらない。マレーバク師団長の肉体の膨張が始まる。ヘビイチゴ師団長に施されていた巨大化手術が彼にも施されていたのだ。


「ブシャアアァァァ。ぐっ、ぐるしい! なんだ、何が起きているんだ。肉体が破裂する。破裂して膨張する。痛い。

 ブギィイイイイ。

 や、やめてくれ! 止めてくれ! どうにか、なってしまう」


 周囲にマレーバク師団長の悲痛な叫びが響き渡っていた。

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