悪夢 VS イエローイレギュラー

 暗がりの中で、瑞穂みずほは目が覚めた。見知らぬ部屋にいる。


 ここはどこだろう。

 考えていても思い出すことはできない。


 暗い廊下を歩く。どこかで、ぴちょんぴちょんと水滴の垂れるような音が聞こえていた。それが血の滴る音であると瑞穂は知っている。だから、振り返ることはしない。

 なぜ私は歩いていたんだっけ。いつから歩いていたんだっけ。

 廊下の先に光が見えた。薄ぼんやりとした明かり。瑞穂は恐る恐る光に向かっていった。


 誰かの背中が見える。大人だ。知らない人だ。

 包丁を握り、台所に立っている。その人は振り向いて、こちらを見てきた。

 顔は真っ暗で見えないが、口元でうっすらと笑っている。何を考えているんだろう。大人は怖い。


「あら、***ちゃん、起きてきちゃったのね。お部屋に戻らなきゃいけないよ」


 瑞穂は後ろを見る。何も見えない。真っ暗だ。だが、大人は怖い。この先へ行くのも嫌だ。

 気が付くと大人が増えている。瑞穂に聞こえるように何かを話し合っているようだが、何を言っているのかはわからない。

 私の悪口を言っているんだ。私を迷惑だと思っているんだ。どう懲らしめるか話し合っているんだろう。

 瑞穂はそう直感すると、逃げることにした。


 振り返って走り始める。だが、上手く歩けない。地面が泥濘のようになっていて、ずぶずぶと沈む。瞬く間に地面に飲み込まれていった。


 なんで、私がこんな目に……。

 理不尽で、不条理な感覚が繰り返し襲う。近くにあるようで遠くにあるような。矛盾した感覚だった。嫌だ、こんなのは嫌だ。

 苦しい。怖い。恐ろしい。


 けれど、何かを忘れている。私にはできることがあったはずだ。

 脳裏に炎が浮かぶ。そうだ。自分はずっと、あの炎を目指していたはずだ。

 そのことを思い出すと、理不尽な恐ろしさが和らいでいく。瑞穂は炎に向かって走り始めた。


 何かが追いかけてくる。さっきの大人だろうか。

 怖い。でも、行かなくちゃ。そう思うと、瑞穂は空を飛んでいた。そして、自分が拳銃を持っていることに気づく。

 後ろに向かって撃ってみた。


 バキュン


 追ってくる大人が怯んだようだ。良かった。

 もう、不条理な苦しさは消えていた。

 後は目指す先にある炎に突き進むだけだ。


 持てる力をすべて開放して、瑞穂は炎に向かって突っ込んでいった。

 そして――。目覚める。

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