アビ教官参戦

 前門の虎に後門の狼。どちらへ進んでも地獄なら、先へ進むしかない。


 彗佐せっさ拓磨たくまは覚悟を決めて、イエローイレギュラーに向かって駆けだす。遮蔽物がなくなった途端、イエローの腕に仕込まれたイレギュトリングによる機銃の雨が降り注いだ。補助装置アタッチメントからシールドを出現させ、どうにか前に出る。しかし、盾に撃ち込まれた銃弾が爆発し、盾にヒビが入った。やがて盾はパキーンと破裂する。

 盾がなくなった瞬間に、どうにか建物の脇に入り、銃弾を回避した。銃弾の一撃一撃がとんでもない破壊力を有しているのだ。


「逃げ切ったつもりか」


 目の前にブルーが現れた。瞬間移動テレポートだろうか。ブルーの腕に光のエネルギーが集まり、高熱を発し始める。

「なっ!」

 あまりのことに拓磨の表情が絶望に支配された。もはや、これまでか。思わず死を覚悟する。

 しかし、現れたものはブルーだけではない。


「させない」


 頭上からブルーに攻撃をするものがあった。ブルーの光線は寸でのところで明後日の方向に飛び、拓磨は致命傷を免れる。

 灰色の翼を棚引かせる水鳥の異能士官アウターマン、アビ教官が飛んできたのだ。


 それは拓磨にとって見慣れた裸体だった。

 控えめだが、形の良い小ぶりな乳房。筋肉質な肉体。脚と腕は筋肉が盛り上がり、下半身は羽毛がびっしり覆っている。靴も履いておらず、代わりに鋭い爪の生えたあしゆびとなっていた。

 そして、手は翼に変化している。その翼で空気を掴み、宙に浮く。空間を自在に支配し、三次元的な動きを可能にしていた。


「空中戦か。興味深い。学習させてもらおう」


 ブルーの興味が拓磨からアビ教官に移っている。

 しめた。そう言わんばかりに、アビ教官の顔に歪んだ笑みが浮かんだ。

 その自在な飛行でブルーを翻弄しつつ、戦いの場を拓磨から離していく。


 ブルーの魔の手から逃れた拓磨は地下に潜る。ドリルで道を切り拓き、イエローイレギュラーの死角へと移動した。

 時折、藁兵ストローマンの部隊が現れ、イエローイレギュラーに攻撃する。マレーバク師団長の指示で動いているのだろう。ありがたい。

 しかし、あくまで破壊工作用の装備に特化しており、マレーバク師団長に直接指揮されているわけでもない。イエローイレギュラーに有効打を与えることもできず、沈められていく。


 だが、時間は稼げた。拓磨は地面から抜け出て、奇襲をかける。その瞬間、イエロイレギュラーは跳躍し、足からジェット噴射で空中に浮いていた。


「地形の把握はしているのよ。どこから来るかは予想済み!」


 その言葉とともに、イエローイレギュトリングの銃弾が浴びせられる。しかし、拓磨はそれを読んでいた。ドリルによって砕かれた地面を石礫としてばら撒き、目くらましにして銃撃を回避する。僅かな時さえあれば反撃の目はあるのだ。

 補助装置アタッチメントを切り替える。腕が音叉に変化した。音叉から音波が発せられた。


催眠音波スリーピングチューン


 その音は眠りを誘発する。48時間起き続けるなどと、無謀なふざけたことをしているものには効果覿面であろう。

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