対ブルー戦線

 カオスイレギュラーズのブルーは宇宙生命体だ。マレーバク師団長のバクバクによる睡眠の支配が及ばないのも頷ける。

 そして、イレギュラーズの中でも飛び切りに戦いにくい相手といえた。だが、引くわけにはいかない。


「拓磨くん、俺は能力を解除するわけにはいかない。どうにか、そいつを止めてくれっ!」


 マレーバク師団長の指示が飛んだ。彼の言葉は当然のことだ。藁兵+3ストローマンプラスさん彗佐せっさ拓磨たくまはそのためにこの場所にいる。


「このぉっ!」


 拓磨は気合とともに、蔦蛇ワイヤーバイパーを繰り出す。しかし、ブルーに手が届いたと思った瞬間、テレポートしており、空振ったまま腕が戻ってきた。

 だが、拓磨の経験値も上がっている。自らの死角の位置に剣を振るう。カオスレッドのリングブレードを模して、新たな剣レプリカブレードを得ており、鞭のようにしなった剣がブルーを捉えた。


 シュシュウー


 しかし、やはり手ごたえはなかった。拓磨が攻撃する瞬間にブルーは実体を霧散させており、攻撃が届くことはない。恐るべき相手である。

 だが、攻め手はまだなくなっていない。強化アームの補助装置アタッチメントを切り替え、念力砲サイコキネシスキャノンの充填を始めた。


「その攻撃は知っている。潰すのみ」


 ブルーは攻撃を急いだ。つまり効果があるということだろう。そして、その焦りこそが狙い目である。


「読めてるぜ」


 拓磨のレプリカブレードが直剣となり、ブルーを貫いた。ブルーはその直撃を受け、胸を抉られる。かに思われた。


「この事態はこう言うべきだろう。なあんちゃって。私は囮なのだ」


 ブルーの言葉は予想外のものだ。攻撃は空振りこそしなかったものの、しっかりとブルーの腕で握られていた。いまだ剣は届いていない。

 それ以上に、ブルーの言葉である。囮とは。その言葉を理解した時、轟音が響く。


 ズドォォォォン


――してやられた。


 マレーバグ師団長の背中が打ち抜かれていた。刹那のことであったが、拓磨はマレーバグ師団長に向かって念力砲を放つ。念力砲はただ攻撃を行うばかりではない。力の干渉を行うことができる。

 タッチの差ではあったものの、マレーバグ師団長を襲った凶弾を少しだけだが押し留めることができた。しかし、マレーバグ師団長からはおびただしい出血がある。そのまま倒れ込んだ。


 一体、どこから狙撃があったんだ。焦燥が拓磨を襲う。周囲を見渡した。その魚眼が敵の位置を見極める。

 光が見えた。スコープの反射が届いたのだ。拓磨はその光に向かい、全力疾走する。ワイヤーを伸ばして時間を縮め、足に仕込んだ噴射装置ジェットキックで移動速度を上げる。

 その先にいるのはイエローイレギュラーだ。


「ちょっと、ブルー。攻撃する前に囮だなんて言っちゃダメよ。もっと勘のいい相手だったら気づかれてたかも」

 拓磨の視線に気付いたからか、イエローイレギュラーが黄色い声を上げた。ブルーは無機質な視線を彼女へと送り、謝罪する。

「理解する。学習した。状況判断のパターンを整理――」


 拓磨はブルーの視線から逃れ、標的を変える。イエローイレギュラーのいる地点へと走り始めた。


「お前も眠っていなかったか」


 そう言いつつ、念力砲を充填する。けれど、そんな隙をイエローイレギュラーが許すはずもない。全身から銃頭が出現し、拓磨を狙う。


 ダダッダッダッダッダッダッダ


 銃撃を慌ててどうにか避けた。その攻撃はひたすらに続く。まるで、弾切れなどないかのようだ。


「もうっ、せっかく須賀すが瑞穂みずほちゃんが48時間耐久配信してたのに! 台無しじゃないの!」


 イエローイレギュラーはそんなことを口走る。その意味は拓磨にはわからなかった。もう一つの地球アナザーアースに娯楽は少ない。だから、48時間配信なんてものが存在することも理解できないのだ。


「よくわからんが、潰す!」


 ムキになった拓磨のアーム攻撃が走る。蔦蛇ワイヤーバイパーを無作為に飛ばした。だが、意思のない攻撃に成功などあるはずがない。すべての攻撃が躱され、反対に銃撃の的となる。拓磨の腕がズタズタに撃ち抜かれ、血に塗れていた。

 今のうちにイエローイレギュラーを仕留めなくては。

 そんな焦りが拓磨の脳裏を占め、視野を狭めている。


――拓磨くん、聞こえるか。無茶をするんじゃあない。


 耳に仕込まれた通信機から声が聞こえてきた。か細いが、マレーバク師団長の声だ。


――お前のおかげで俺には意識がある。バクバクのコントロールも失ってはいない。

 あの女を寝かしつけてやれ。俺が悪夢を見せてやる。そして、奴らを爆破するのだ。


 マレーバク師団長の声で、どうにか拓磨は冷静さを取り戻した。だが、イエローイレギュラーには近づくことさえ困難な上、背後からはブルーが迫る。

 依然、ピンチは続いていた。

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