能力拡張

「ほう、マレーバク師団長とな」


 カセイ参謀長がその名を挙げると、ゴリ将軍が思案気に唸った。


「奴の能力はせいぜい町一つを夢の中から支配する程度。それでカオスイレギュラーズを相手にするのは博打ではないか」


 その疑問にカセイ参謀長が答える。


「彼の能力は無限の可能性を持っています。彼の提出した作戦計画書も読みました。素晴らしいものでしたよ。完全無欠の作戦といえます。

 ただ、その範囲を広げる工夫は必要でしょう。彼のバクバクをクローン合成し、それを日本中に放ちます。バクバクの行方はオペレーターが追い、区域ごとに管理させます。マレーバク師団長にはその統括だけやってもらえばいいのです」


 それを聞き、感心したようにゴリ将軍が笑みを見せる。


「それは剛毅な作戦となるな。そんなことが起きるなど、本来の地球オリジナルアースの者どもも、カオスレギュラーズも夢にも思うまい。文字通りにな」


 その磊落な笑い声を聞き、ようやくカセイ参謀長は一心地つく。そうだ、自分は誰よりも有能なのだ。ゴリ将軍など、ただ運よく武功を立てただけの男でしかない。本当の実力は私が上なのだ。

 しかし、気分を良くしているだけではことは進まない。


「そのためには、トケイ技官長、あなたにシステムの構築を依頼したい」


 カセイ参謀長の視線がトケイ技官長に向かった。

 その顔に時計の針や歯車が回るトケイ技官長は急に話が向かい、ビクッとする。だが、自分たちが期待されているのだと感じると、急に自信にあふれ始めた。


「ハッハッハ、素晴らしい作戦です。我ら優秀な技術者にとって、そんなことは造作もないこと。必ずや、作戦成功に貢献することでしょう。

 あと、こういうのどうでしょう。副官として随行する藁兵+3ストローマンプラスさんには睡眠誘導装置を持たせるというのは」


 高らかにトケイ技官長が宣言する。だが、それにゴリ将軍が口を挟んだ。


「トケイ技官長よ、お前は御子殿からも依頼を受けていたのではないか。そんなに安請け合いして大丈夫なのか?」


 その言葉を受けて、はたと気づいたようにトケイ技官長が思案した。


「ゴリ将軍ともあろうものが杞憂をなさるものですな。我ら技術技官は休日を廃して業務を推進しております。そうですな、バクバクに夢を食わせてしまいましょうか。睡魔などは軽く吹き飛ばすことができるでしょう。

 心配めされますな。世界帝国の技術推進は止むことなく続いているのです。もちろん、御子の願いもカセイ参謀長の要望もどちらも達成しますとも」


 トケイ技官長は覚醒したまなこでそう宣言する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る