カセイ参謀長裁判
地球方面軍の幹部たちが集まり、侵攻会議が執り行われる。しかし、実際に行われるのは自分を更迭するための裁判のようなものだろう。カセイ参謀長は自嘲気味に、そう考えていた。
世界帝国の総統の御座から、御子が降りてくる。カセイ参謀長の生死の決まる会議だからか、御子のアイは緋色の袴に白衣を纏っていた。自分の死を看取るような服装だと思ってしまう。
「皆様、統治は順調なようですね。総統もお喜びです」
アイはにこやかに幹部たちに語り掛ける。だが、それに異を唱えるものが現れる。アイの体内から、もう一人の御子であるマイが現れる。
頭に黒いベールをかぶり、黒いブラウス、黒いスカートを着ている。その姿は喪服であるかのように感じられた。
「甘い! 甘いのよ! 確かに、順調に統治の進んでいる地域はあるけど、それよりも奪われた土地があるんじゃないの!? そうでしょ、カセイ参謀長? 日本はもう奪われてしまったのよ。このままでいいのかしら? カセイ参謀長を更迭するべきよ」
ぴしゃりとした物言いで、マイが捲くし立てる。
その言葉はカセイ参謀長にとって耳の痛いものだった。これから自分はどうなるのだろうか。よければ降格で済むが、悪ければ見せしめとして処刑されるだろう。
絶望的な感情に支配され、顔面を蒼白にさせたカセイ参謀長に、ゴリ将軍がアイコンタクトを送ってきた。まるで、自分に任せておけ、と言わんばかりの表情だ。ゴリ将軍に頼もしさを感じるとともに、言いようのない敗北感と劣等感を抱く。どうなって欲しいのか、自分でもわからなかった。
「恐れながら申し上げますが、日本ではまさにイレギュラーな事態に見舞われております。ほかの地点と同じように査定しても、埒の明かぬことでしょう。カセイ参謀長だからこそ、このくらいの被害で済んでいるのかもしれません。
私もいくつかの作戦を監督いたしましたが、まさに完璧な策略を巡らしておりました。相手がこちらの、いえ、誰にとっても、予想をつかない戦力を投入してきただけのこと。そこに非があると申すなら、私の判断にも非があるということです。カセイ参謀長を更迭するのでしたら、私の更迭も必要かと具申いたします」
ゴリ将軍の言葉を受けても、マイの気は収まる様子がない。カッカと肩を怒らせながら、金切声を上げる。
「あんたねぇ、じゃあ、誰にも責任がないって言いたいの!?
この前の作戦だって、ヒキガエル師団長に巨大化処置を施しておけば、少しは戦果上がったんじゃないの!?」
それをアイが収めた。
「マイ、あまり誰の責任かなんて求めてもしょうがないのです。必要なことは私たちが何を為すべきか、ですから。
どうでしょう、ここはモコの判断も委ねては」
三人目の御子が呼び出される。アイとマイが抱き合うと、その間から、少女が出現していた。アラビア風の黒いドレスを纏い、黒いチャドルを被っている。
「アハハー。誰が悪いかなんてないよー。別に今、悪い状況じゃないでしょお」
能天気な笑い声が響いた。
三人目の御子が現れる時は総統の機嫌が悪い時だと言われていたが、そんなことはないのだろうか。そもそも、三人目の御子にあったものなんて、実際には会ったことがない。単なる都市伝説だということだろうか。
「モコ! そんなことでいいの? 日本が奪われたら、次はどこ? 中国? 台湾? フィリピン? それとも、アメリカ? アメリカ軍が自由になることは最悪も最悪、
マイはモコの言葉にも不服を漏らす。しかし、それはその通りだ。世界帝国の最大の敵はアメリカ軍のはずだった。だからこそ、最初の標的にし、完全に沈黙させたのだ。このまま、カオスイレギュラーズを調子に乗らせ、アメリカ軍を解放されるのは恐怖でしかない。
「マイ、そんなことは細かいことなんだよー。
ねえ、聞いてるでしょ。
にこにこ笑いながら、モコはそう話した。
御子の言葉は総統の言葉でもある。まさか、総統が藁兵+2を気にかけているのだろうか。
カセイ参謀長は不審に思った。いや、破片というのが重要なのだろう。実際、破片さえ手に入れれば、奴らの居場所を特定できるのだ。この情報は値千金といえる。敵の急所を握っているに等しいのだ。それでありながら、作戦を失敗しているという事実もあるのだが。
「…………」
マイは意味深に表情を曇らせて沈黙する。何かが彼女の琴線に触れたようだが、それが何かはわからない。
やがて、カセイ参謀長の思案はゴリ将軍の声によって遮られる。
「どうにか首の皮一枚で繋がったようだな。だが、この後が肝心だぞ。どう対策を立てる?」
それを聞き、カセイ参謀長は自分の温めていた作戦を実行するべきだと感じた。にやりとした笑みを浮かべつつ、ゴリ将軍に答える。
「それでしたら、実は派遣していただきたい
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