ヒキガエル師団長 VS 藁兵+2幸輔

 カオスレッドは恐ろしい強敵だ。しかし、今は+2プラスにとはいえ、藁兵ストローマンに身をやつしている。ここで倒せずして、一体いつ倒す機会があるだろうか。

 ヒキガエル師団長はいきり立っていた。いかにこちらの動きを読み切ろうとも、力量スペックに差があるのだ。凌ぎ切るのにも限界があろう。


「ゲロロ、覚悟することだ」


 二枚舌を広げながら放つ。咄嗟のこの攻撃には中央に避けるしかない。そこへヒキガエル師団長が跳躍し、蹴りを見舞った。これには避ける余裕があるはずもない。

 カオスレッドの精神の宿る藁兵+2は盾を用いて攻撃を防ぐが、所詮はヒビの入った盾である。ヒキガエル師団長の一撃で容易く砕けた。そのまま、本体に強烈な蹴りをお見舞いする。はずであった。

 藁兵+2の強化アームが盾からドリルに切り替わる。破壊された盾が目眩しとなり、ヒキガエル師団長はその攻撃をまともに受けた。ドリルが脚を抉る。


「げろぃいいえええええええ」


 悲痛な叫びが響き渡った。だが、ヒキガエル師団長はその場でのた打ち回るような愚はしない。もう片方の足で跳躍し、距離を取った。


「ハッハッハッ、雑魚だと思って見縊みくびったか。工夫とタイミング次第ではどんな奴でも大物喰いジャイアントキリングはできるものだ」


 藁兵+2の高らかな声が木霊する。

 驚くべきはカオスレッドの慧眼であろう。強化アームの使用方法を瞬時にものにし、状況に合わせて的確な判断をしてみせた。慣れない身体であるなんて微塵も思わせない。


 だが、激痛に喘いでいるとはいえ、打つ手がなくなったわけではない。遠距離で戦う手段も持ち合わせている。

 ヒキガエル師団長は体内で毒を分泌する。必殺の毒殺嘔吐ブフォトキシンだ。藁兵+2が迫ってくれば、それを放つ。そうすれば、身体が痺れ、動きを止めることができるのだ。

 藁兵+2は強化アームの補助装置アタッチメントを切り替え、念力砲サイコキネシスキャノンの充填を行っている。それも、ブフォトキシンの勢いであれば弾き返すことは可能だ。


「待ちか。ならば、これはどうだ」


 強化アームの補助装置アタッチメントが切り替わる。腕がワイヤーに換装された。そのワイヤーを伸ばし、ヒキガエル師団長の肩を掴んだ。

 ヒキガエル師団長はほくそ笑む。そのワイヤーを引き戻すスピードよりも、ブフォトキシンを放つスピードの方が速い。何をやろうと無駄なことなのだ。

 しかし、予想外のことが起きた。藁兵+2はヒキガエル師団長を掴んだまま、カートリッジを切り替える。その瞬間、ワイヤーの機能はなくなり、瞬時に藁兵+2がヒキガエル師団長の目の前に移動してきた。瞬間的にワイヤーが消えたことで、その間隔は瞬間移動のような形で埋められる。

 強化アームに設置されたのは充填しきった念力砲サイコキネシスキャノンだ。換装しても充填はリセットされない。そんな仕様は認識していなかった。

 ヒキガエル師団長は避ける間も弾き返す間も与えられずに、その直撃を受ける。


「ゲロゲロゲロ、入れ替える作戦が成功した喜びが、敗北の悲しみに上書きされる。悲喜交々ひきこもごもであるなあ」


 その瞬間、ヒキガエル師団長は消滅した。

 藁兵+2とカオスレッドの精神はその瞬間に入れ替わる。元に戻ったのだ。


「まさか、この状況で負けたのか」


 拓磨は焼けるような熱を持つカオスレッドの肉体から解き放たれた安堵を感じつつも、敗北の事実が突き付けられる。だが、悲嘆にくれるような時間はない。逃げなくては。

 ふと、足元に自らが叩き負ったブラックの刀の破片が落ちていることに気づく。


 アビ教官の言葉が思い出された。カオスイレギュラーズの装甲や破片を持ってくる、だったか。

 拓磨は刀の破片を手にし、次元転移装置を作動させた。それとともにこの地から消え去る。


「逃げた……か」


 カオスレッドがぼそりと呟く。それに対し、ブラックが答えた。


「逃げたのではない。生き残ったのだ。これから、手強くなるぞ」

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