カオスレッド拓磨 VS ブラック

 カオスレッドの身体を操る拓磨は、突如乱入したブラックに驚き、思わず飛び上がった。そのまま、リングブレードを構えたまま、距離を取る。カオスレッドの肉体は一つ動くだけでも高温を発し、体中に熱気と苦痛が駆け巡った。意識を保つだけでも精一杯である。


「ふむ」


 ブラックは思案気にその様子を眺める。そして、刀を下段に構えた。様子見なのだろうか。防御に特化した構えである。

 しかし、拓磨には様子を見る余裕なんてない。できるだけ早く決着をつけたかった。全身が熱くて仕方ないのだ。

 最悪、ブラックにカオスレッドを殺させてもいいのだが、仲間を殺すなんてことはしないだろう。この力があるうちにブラックを倒しておきたい。


「うぉりゃあぁぁぁぁあああ!」


 全身の焼ける感覚を胡麻化すように雄叫びを上げつつ、リングブレードを構えて飛び掛かった。そのままブラックには突っ込まず、その脇に着地する。まずはフェイント。そして、その刹那、リングブレードを鞭状にしならせ、ブラックに切りかかった。

 だが、さすがは達人である。その変則的な動きを読み切り、鞭と化した剣撃を容易く弾いた。


「その身のこなし、太刀筋。覚えがある。聖徳太子流しょうとくたいしりゅうじゃな。

 ふふ、ぬしの流派には苦い思い出があってのう。何としても討ち果たしくなったわ」


 確かに拓磨は聖徳太子流の剣術を代々受け継いできた一族であった。かつて聖徳太子がその開祖となり、その秘伝を鬼一法眼きいちほうげんが受け継ぎ、源義経みなもとのよしつねに伝えたという。なんとも胡散臭い曰くのある流派であった。

 拓磨はそんな伝説など信じてはいないが、それでも幼いころから仕込まれてきたその技の数々は身に刻まれている。


 にやりと笑うと、ブラックの構えが変わった。下段に構えられていた刀がさらに脇に下がる。拓磨からはその剣先が見えない。隙だらけにも見えるが、どこにも隙がないともいえる。どう攻撃してくるのかわからず不気味だった。

 ならば、攻防一体の攻撃を仕掛けるのみ。拓磨はリングブレードを本来の形状であろう、リング状に変化させた。


「でっしゃい!」


 リングで体を覆いながら、跳躍する。全身が焦げ上がるほどの苦痛があった。だが、ここで倒れるわけにはいかない。一度。二度。三度。ブラックの周囲を跳び回った。

 そして、四度目。体当たりするかのようにブラックに突撃する。だが、これもブラックには読まれていた。


 ガギィィンキィン


 リングブレードとブラックの刀がぶつかった。剣の腕はブラックが上を行く。だが、勝負はそれだけで決まらない。リングブレードの硬度、カオスレッドの膂力が合わさり、ブラックの刀が折れる。その衝撃でブラックもまた吹っ飛ばされた。


「くっ、やりおるわ。だが、負けぬ」


 ブラックは立ち上がる。そして、その闘志に応じたのか、時空を超えて、彼の前に新たな刀が出現した。黒色の刀をブラックが手に取る。


「この銘は“星霜”。時が打ち上げた刀だというのか。だが、これで互角。勝負の続きと行こうか」


 漆黒の刀身を抜きながら、ブラックが満面の笑みを見せる。拓磨は全身を巡る熱気に焼かれながら、限界を感じていた。

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