カオスレッドの力
「ほぉう、これは面白い能力だな」
「油断はするまいぞ。
ヒキガエル師団長は唸り声とともに、発信機のスイッチを押す。藁兵たちが雪崩込んでくる手はずであった。
しかし、何も起こらない。
だが、時を同じくして通信があった。
「師団長、藁兵たちがカオスイレギュラーズの攻撃を受けています」
「バカな、カオスレッドは我々の動きに気づいた様子はないはず。そのはずよの、そう監視していたはずだが」
「はい、その通りです。ですが……」
どうやら、作戦は手はず通りに進まないようだった。
「読めた。この能力、いつまでも続くものではないな。そうでなければ、そんなに慌てるはずがない。解除にはどんな条件が必要かわからないが、まずはお前を倒してから考えてみるかな」
藁兵+2の、いや、カオスレッドの声が響く。
ヒキガエル師団長の脳裏に焦りがよぎっていた。作戦が手はず通りに進まないことも不審だが、カオスレッドの読みも的確なものである。
「だが、特殊能力特化とはいえ、私とて
ヒキガエル師団長の舌が勢いよく飛び出て、カオスレッド入りの藁兵+2を襲う。藁兵+2は素早く避けるが、舌の威力は凄まじい。衝突した床と壁が粉々に砕け、大穴が開いた。
藁兵+2は避け様に剣を突き刺すが、これはヒキガエル師団長が左腕で受ける。その腕は油でぬめっており、剣の衝撃を受け流した。
「鍛え上げられたいい肉体だ。これなら十分に戦える」
ヒキガエル師団長は圧倒的な力量差を見せつけたはずであったが、カオスレッドの態度は依然不敵なものである。負ける要素などないはずなのに、プレッシャーを感じざるを得ない。
次いで、藁兵+2の背後からカオスレッド拓磨の攻撃が迫った。その剣が叩き込まれる寸前、剣の形状が変わり、鞭のようにしなだれる。勝手が変わっていた。鞭のしなりは明後日の方向に向かい、カオスレッド拓磨の攻撃は空振りする。
「なんだこれ、使いづらっ!」
拓磨はついついぼやいてしまった。それを聞いた藁兵+2の笑い声が響く。
「俺のリングブレードは変幻自在だ。意志に応じて姿を変えるぞ。使いこなしてくれ」
そう言われてみると、確かに自分の思った形状に変わってくれるようだ。しかし、このカオスレッドとかいう男、どれだけ余裕綽々だというのか。
悔しさをまぎれさせるかのように剣を振るい、藁兵+2を襲う。もはや自分の肉体だという遠慮は消し飛んでいた。
同時に、ヒキガエル師団長も攻撃に映る。ピョンピョンと跳躍し、周囲の床や壁、天井に着地しては、さらに跳躍する。素早い動きでどこから攻撃が入るか、見切れるものはそうはいないだろう。
「喰らえ!」
「ゲロッロッロッ!」
急造コンビとは思えない見事なコンビネーション。拓磨の攻撃は頭上から襲い、ヒキガエル参謀長の攻撃は足元を襲った。
縦に振る拓磨の攻撃と横に振るヒキガエル参謀長の攻撃。一見逃げ道のない二連撃であったが、藁兵+2はなんなく避けた。まさしく、達人の間合い。攻撃を冷静に見切っていたのだ。
「なんだ、この破壊力は……」
一方、拓磨は空振りしたものの、振り落とされた剣閃は床を切り裂き、壁を穿つ。その攻撃の威力には驚きを禁じ得ない。加えて、身体の切れ、身のこなし、動きやすさ。そのどれもが藁兵+2の時とはまるで違う。まさしく最強の肉体だ。
しかし、それだけではない。強烈な違和感がある。
――熱い。全身が焼けるようだ。
ほんのちょっと動いただけだというのに、強烈な熱気が全身を苛んでいた。これはカオスレッドのスーツの副作用なのか。強力な力が出る代償として、全身を燃やすような苦痛が全身を焼き続ける。全身が蒸気機関になったような、火力発電所に変化したような、奇妙な、それでいて耐え難い苦痛であった。
燃える。焼ける。熱い。焦げる。
これほどの熱を感じながら、カオスレッドはあれほどの動きをしていたというのか。余裕の表情を崩さなかったのか。
カオスレッドの力は強い。だが、強いのは体や技だけではない。心が強いのだ。
あまりの苦痛に気を失いそうになりながらも、拓磨は気力を振り絞り、どうにか立ち続ける。そして、もう一太刀、藁兵+2に浴びせかけようとした時だ。
ガギィィン
その剣を何者かが防ぐ。黒い鎧をまとった戦士。ブラックだった。
「相手が二人なら、わしも参加しようぞ。
ブラック、
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