入れ替える作戦
それはジムだった。赤みがかった黒髪の青年が施設内を回り、利用者に声をかけている。背は高く、がっしりした印象でないが、引き締まった肉体をしており、その洗練された佇まいは只者でないことを伺わせた。彼はこのジムのトレーナーなのだろう。
青年は
どういうわけか、二人の完璧な変装が見抜かれてしまったらしい。こうなると、こそこそと策を弄するよりも、堂々と振る舞ったほうがいい。ヒキガエル師団長は長年の経験からそう判断した。
正体を現し、正面から尋ねる。
「お前がカオスレッドか?」
赤いマントで全身を翻して、まだら状の模様の入ったヒキガエル師団長の姿が露わになった。丸みのある頭と胴体、目は顔からギョロリと飛び出ており、手足には水掻きがある。あろうことか、その姿はカエルであった。ヒキガエル師団長はカエルの姿を持つ
ヒキガエル師団長の問いかけに、青年はにやりとした笑みを湛えつつ、返事をした。
「だとしたら?」
青年は満面の笑みを見せ、筋トレ機具の中に仕込まれていた剣を手にする。それを抜き様に、ヒキガエル師団長目掛けて閃かせる。
「危ない!」
拓磨は手に持った剣で、青年の剣を弾いた。
「ほぉう、お前は……」
青年は口角を歪めると、腕のリングを起動した。リングから炎のような渦が発生し、青年を包み込む。
全身を燃え上がる炎で包んだような、混沌の兵装へと姿が変わった。ゴーグル越しにヒキガエル師団長と拓磨を見下しつつ、その変幻自在な剣技が二人を圧倒する。
「拓磨くん、カオスレッドを抑えてくれ」
その言葉に従い、ヒキガエル師団長の前に出た。
「
強化アームのカートリッジを換装し、盾を出現させる。今回、追加した
ビリビリビリビリ
途轍もない衝撃が盾から感じられた。あまりの衝撃に、新調したばかりの装甲全てが破損しそうなほどだ。初めて交戦した時、剥き出しのパーツがいくつも破壊されたが、それも頷ける。ただ、剣を受けるというだけでこれほどのダメージがあるのだ。
だが、どうにか耐えることができた。盾にヒビが入り、鎧もみしみしと音を立てているが、耐えきったのだ。
「よくやったぞ」
ヒキガエル師団長の声が聞こえた。僅かな間ではあるものの、カオスレッドの相手をしたことで隙を生んだのだ。
二枚舌がカオスレッドと拓磨に纏わりつく。
「
ヒキガエル師団長の雄叫びが響き上がる。それと同時に拓磨に奇妙な感覚が襲った。
次の瞬間、拓磨は拓磨自身に剣を向けていることに気づく。いや、剣を向けているのはカオスレッドと化した拓磨であり、拓磨の肉体の中にはカオスレッドが入っているはずであった。
二人の肉体と精神が入れ替わったのだ。
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