ヒキガエル師団長

 次元転移を行った彗佐せっさ拓磨たくまは、本来の地球オリジナルアースでヒキガエル師団長と合流する。

 ヒキガエル師団長はその姿が露わにならないよう、赤いマントを纏っていた。

 拓磨はというと、灰色のマントを纏っているが、その下には褒賞として下賜された銀色の鎧に身を包んでいた。その姿はもはや藁兵ストローマンなどという揶揄は当たらないであろう。そして、その内部では、皮膚を凝固させる改造が施され、筋肉は鋼のような硬さを持たされていた。


「お前さんか、カオスイレギュラーズとの戦いに二度も参加し、二度生還したというのは。

 ゲロッロッロッロ。二度敗北したことは悲しむべきだが、二度生き残ったことは喜ぶべきだ。悲しいことと喜ぶべきことは同じように訪れるものよの。それはお前さんの力になっているだろうよ。だからこその、藁兵+2ストローマンプラスになのだろう」


 初めて会った異海将校アウターマンだったが、感じの良い人だった。しかし、人当たりの良さで戦争に勝利するわけではない。


「ヒキガエル師団長、あなたの異能を見せてもらえませんか」


 拓磨はヒキガエル師団長の力を確認しようとする。彼の能力に確信を持てなければ、それを前提にした作戦に命を懸けるなんてできそうにもなかった。


「では、デモンストレーションしてみせようかえぇ」


 通りすがるカップルがいた。そのカップルに対し、ヒキガエル師団長の二枚舌が伸びた。一方は男を捕らえ、一方は女を捕らえる。そして、次の瞬間、奇妙なことが起きる。


「え、あれ、なんで私は私と歩いてるの」

 野太い声だった。カップルの男が女を見ながら、こんなことを言う。

「え、きしょ。え、でも、俺か? 俺は何でこんなキモいんだ?」

 男と女が入れ替わっているのだ。


「これで、信頼していただけるかの。お前さんとカオスレッドを入れ替える。これさえ効果を発揮すれば、カオスレッドがどれほどの力量であろうと、怖くなんてないよのぉ。その後、藁兵ストローマンを呼び寄せ、早急にカオスレッドを破壊。それで作成は成功だ」


 確かにその通りだ。相手が強大な組織であれば、暗殺のような手段は焼け石に水でしかない。だが、個人の力量に頼った少数精鋭の戦隊ならどうか。暗殺による各個撃破が、即組織瓦解のマイルストーンとなるのだ。


「しかし、その場合、カオスレッドの中にある私の意識というか、精神はどうなるのですか?」


 拓磨が疑問を口に出す。ヒキガエル師団長は少し考えながら、言葉を綴った。


「ふむ、それは多少問題のあることだ。心の弱いものなら、痛みと死の恐怖から、精神まで死に至ることもある。だが、お前さんなら大丈夫だと信じている。

 二度も部隊の壊滅に居合わせ、それでも生還してみせたのだ。その程度の苦痛は跳ね返せるだろう」


 やはり、危険のある作戦だということだ。だが、あれほどの強者と相対して、危険がないわけはない。

 まずは功績を上げ、軍の中枢に近づく。そうすれば、総統に接する機会も生まれるはずだ。そして、俺は総統を……。そのためには、なんとしても勝つ必要がある。


 張りつめた空気を漂わせつつ、拓磨とヒキガエル師団長はカオスレッドのもとへと近づいていた。それは勝利への近道なのであろうか。

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