運命の輪

 本来の地球オリジナルアース侵攻の幹部たちが集う会議が執り行われようとした。

 その会議に向かう、カセイ参謀長の足取りは重い。確実に成果を上げるとまで大見得を切ったのだ。だというのに、結果は惨敗だ。

 状況を打開する作戦は考えてある。だが、それでも総統の御子からの叱責は免れないだろう。何より、ゴリ将軍が何を思うのか。それを考えるだけで絶望と苛立ちが交互に襲ってくる。


「カセイ参謀長よ」


 呼び止める声があった。今、脳裏に浮かべたばかりのゴリ将軍である。あまりの間の悪さにカセイ参謀長は慌てた。

「ご、ゴリ将軍……」

 声を上ずらせながらも返事する。ゴリ将軍はカードの束を出しながら、話し始めた。


本来の地球オリジナルアースのタロットカードを手に入れてな。一風変わった絵柄なのだ。興味深くないか? 数百年前にイギリスの魔術結社ライダーによって作られたらしい。

 試しにカセイ参謀長の今後の運勢を占わせてもらえないだろうか」


 その言葉を聞いて思い出す。ゴリ将軍の趣味は占いであった。

 非科学的なことだとカセイ参謀長は密かに嘲笑っていた。軍務と占いに密接な関係があったのはせいぜい中世までだ。

 だが、ゴリ将軍が成果を上げだすと笑うこともできなくなる。占いによって戦果を出しているとは思えないが、どこかその行動に薄気味悪いものを感じていた。

 とはいえ、今はゴリ将軍が上官である。今後の人間関係を思うと、断ることはできない。


 会議室に着くと、互いに隣の席に座る。そして、ゴリ将軍はタロットカードを取り出した。22枚のカードからなる大アルカナと呼ばれるデッキだ。

 カードをテーブルに置くと、くるくると回転するように広げ、そのまま混ぜる。ひとしきり混ぜ終えると、まとめ上げて、トントンと揃えた。


「時間もない。一枚だけめくるワンカードオラクルにしよう。

 本来なら何を占うか尋ねるところだが、私から決めさせてもらう。次の作戦がどうなるか、それを占ってみようじゃないか」


 そう言うと、ゴリ将軍はその毛むくじゃらの剛腕で一枚のカードをめくる。円形の図形の周りに四人の天使が描かれたカードだった。カセイ参謀長から見ると、下向きになっている。


運命の輪ホイール・オブ・フォーチュン。逆位置か。お前の逆風はまだやまぬようだな。変化についていけない、悪条件が重なるという暗示だ。最悪の状況を想定して行動するべきだと教えている」


 それを聞いてカセイ参謀長は笑いだした。あまりにも荒唐無稽だ。


「よしてくださいよ。最悪の事態を考えるなんて、軍略において初歩も初歩です。確かに私は失敗しました。ですが、それは情報が足りなかったからです。相手の戦力がわかった以上、このまま、してやられるつもりはないのです」


 言葉を連ねるカセイ参謀長に対し、ゴリ将軍はその目を真っ直ぐに見つめていた。その純粋な瞳に思わず、目を逸らしてしまう。


「わからぬか。このカードに描かれている絵が……」


 そう言われて、カセイ参謀長は目の前に置かれたカードを見た。中心に描かれる円は運命の輪を意味しているのだろう。そして、四方に描かれるのは、翼の生えたライオン、牛、天使、鳥。確かに見覚えがあった。

 カオスイレギュラーズの巨大戦力、カオスイレギュラーロボの合体する前のメカと同じ状態である。


「こ、これは……」


 思わず絶句する。それをしたり顔で眺めつつ、ゴリ将軍は語った。


「運命に選ばれたというカオスレッド。運命の輪ホイール・オブ・フォーチュンに描かれた予言とも思える絵。そして、逆位置の運命の輪。カセイ参謀長、気を付けろよ」


 確かに符合する。だが、それを伝えるために、占うふりをして、このカードを見せたのだろうか。

 カセイ参謀長の中にある劣等感と嫉妬がゴリ将軍への憤懣となり、感情が激しく揺れていた。

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