等身大戦闘

「ぃちっ! 傲慢な奴よ、一人で突っ走りおって。藁兵+1ストローマンプラスいちというから、どれだけの活躍をするかと思ったら、真っ先にやられおったわ。

 構わん!我らが物量で畳み込むぞ! 我がツタも貴様ら藁兵をサポートする。あの程度の奴ら、物の数ではない」


 ヘビイチゴ師団長はあっという間にやられた彗佐せっさ拓磨たくまに呆然としたものの、すぐ立て直して、威勢の良い言葉を並べた。

 だが、内心では強い焦りでいっぱいになる。参謀部からはまず失敗することのない戦力を与えると約束されていた。

 だが、実際に当てられた戦力の多くは、この土地で攫った幼児を急速成長させた俄か強化兵士ヤングストロングマンばかりである。弾除けや肉壁には使えるかもしれないが、それ以上のことには期待するのが愚かというものだ。

 その上、最も期待していた藁兵+1ストローマンプラスいちは瞬殺された。この戦いのどこに勝機を見出せばいいのか。


「ワァァワァァァァァ」


 鬨の声を上げ、藁兵たちが突撃する。

 敵の数はたったの五人。だが、油断できるわけもない。異海将校アウターマンの中でも上位の成績であったカジキ師団長がなすすべもなく殺害された相手だ。どのような搦手や不意打ちをしてくるかわからない。


「へんっ、雑魚どもが群がりやがって! だが、俺が正義だ! 正義の名のもとにお前らを天誅する」


 灰色のスーツを着たグレーがいきり立つ。

 次元を超えて本来の地球オリジナルアースに現れた盗賊だ。最新鋭の特殊装甲服スーツを盗み出し、世界帝国の軍勢に抗っていると聞く。


 両手にダガーを手にしたグレーが藁兵たちに向かい、走りだした。だが、瞬時に姿が消える。次元を転移したのだ。

 瞬間、グレーは藁兵ストローマンの背後に出現した。そして、すかさずダガーを藁兵の首筋にある装甲の隙間に差し込んだ。おびただしい出血。その一撃で藁兵は大量に血を流し、やがて倒れた。

 グレーは転移を繰り返し、藁兵を寄せ付けないまま、一撃のもとに撃沈させていく。


「正義とは重い言葉だ。そう、易々と口にしていいものではない」


 グレーを咎めたのは漆黒の鎧を纏う剣士だった。

 正体不明の敵だが、前回の戦闘を分析するに時間の流れに干渉する力があるように見えた。


 ブラックは刀を鞘に納めた状態で、居合の構えを取る。周囲の時間が歪み、藁兵たちの動きが鈍くなった。ブラックが刀を一閃させる。たった一太刀を浴びせたようにしか見えなかったが、周囲の藁兵すべてがその肉体を斬り裂かれていた。


「この辺りの住民はすでに避難済みです。遠慮なく、掃討モードを使用します」


 黄色の戦士が声を上げた。妙にキャピキャピした印象のある若い女性の声だ。

 本来の地球オリジナルアースでも精鋭中の精鋭といわれるイエローイレギュラーだろう。


 イエローイレギュラーの身体が変化する。肩や膝、肘から砲塔が出現し、鼻がせり上がると機関銃が出現する。それだけではない。身体の節々から銃身が現れていた。


 ダダダダダダダダダダンダンダン


 怖ろしいまでの絨毯爆撃である。逃げ場なんてない。藁兵たちは芝が刈られるかのように、バッタバッタと薙ぎ倒されていく。


「あははは、あははははは」


 ヘビイチゴ師団長の口から笑い声が響いた。もはや、笑うほかない。ヘビイチゴ師団長としても、いたずらに藁兵を消耗したつもりはない。ツタを伸ばして援護していたし、弾丸果実を発射して攻撃してもいた。だが、そのどれもが通用していないのだ。


「お前が親玉だな。大将同士、決着をつけようぞ」


 空から赤い戦士が降ってくる。意味が分からない。これがもう一つの地球アナザーアースを撃退すると噂される運命の戦士、カオスレッドなのだろうか。


 カオスレッドの剣は自在に変化する。直刀の形状でヘビイチゴ師団長のツタを切り裂き、リング状の形状で弾丸果実を弾き返した。そして、鞭のような形状でヘビイチゴ師団長をなます切りにする。


「ぃちっ! 互角の勝負もさせてもらえないか。俺の負けだ」


 ヘビイチゴ師団長の悔し気な声が響く。

 だが、それで終わりではなかった。ヘビイチゴ師団長は自分の肉体が沸騰するのを感じる。そして、痛みとともに自分の身体が膨れ上がるのがわかった。


「ぎぃええええぇぇぇ」


 ヘビイチゴ師団長の断末魔のような叫び声とともに、その肉体が増殖していた。腕が膨れる。足が膨れる。顔が膨れ上がる。暴走する肉体の成長は激しい痛みを伴うものであった。


 膨れる。膨れる。膨れる。


 全身が何度も破裂するような感覚を味わいつつ、ヘビイチゴ師団長はいつの間にか新たな肉体を得ていた。

 そして、散々翻弄されていたカオスイレギュラーズの五人が豆粒のように見える。自分の身体が巨大化しているのだ。

 今なら、ほんの少し、踏みつけるだけで容易く倒せるだろう。


「俺の身体が暴走する。ぐぅああぁぁぁぁっ」


 ヘビイチゴ師団長の身体はもう大きくなることはなかったが、膨れ上がるのが止まることはない。有り余った肉体はそれ自体が一個の生命体のように、膨れ、歪み、悶え、周囲を破壊しながらのた打ち回る。


「何が起きたんだ……」


 この状況でそう呟いたのは、藁兵+1わらへいプラスいちの拓磨だ。意識が戻りつつあった。

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