Another.02 巨大戦力登場

幹部会議

 薄暗い会議室で、本来の地球オリジナルアースを進行する軍部の幹部たちが集まっていた。

 会議室の上階には世界帝国の総帥が影だけ見せている。幹部たちといえど、身分が違う。その姿は彼ら程度では見ることも敵わないのだ。


 総帥の影の映る部屋へと続く階段からは少女が降りてくる。晴れ着のような和装を身に纏っていた。まだ幼い少女であるが、彼女は総帥の御子であり、その言葉を携えているのだ。

 御子が降りてくると、ゴリ将軍が口を開いた。


「予定通り、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパの主要国の軍隊は沈黙。続いて、中東、アフリカ、オセアニアへと軍を進めております」


 ゴリ将軍はゴリラの肉体を持つ異海将校であり、その瞳には理知的な光が宿っている。

 もう一つの地球アナザーアースの戦場を渡り歩き、華々しい戦果を挙げた英雄であり、将軍となった今でも本来の地球オリジナルアースをことごとく支配してみせている。総統の信頼の最も厚い軍人であった。


「ゴリ将軍、素晴らしい働きですね。総統も喜んでいますのよ」


 御子は微笑みながらそう伝える。だが、その言葉に異を唱えるものがあった。

 そのものは御子の身体の中から、分裂するように出現する。


「アイ、あなたは甘いのよ。ゴリ将軍は失敗を口にしていない。そんなこと許していいの? アジアの趨勢はどうなったのよ。敗北したんでしょ」


 西洋風のドレスを纏った少女であった。アイと呼ばれた御子と瓜二つの姿をしている。


「はっ。これより説明するつもりでした。東アジアの侵攻も進めており、中国、半島の支配は完了しております。

 日本においても、本州、九州、四国は支配下におさめているのですが、北海道の一部地域のみ、混成戦隊カオスイレギュラーズと名乗る者たちの反抗を受け、敗走の憂き目に遭っているのが現状です。そのため、東南アジアへの侵攻に遅れが出ております」


 その言葉を聞いて、ドレスの少女は冷めたような見下すような視線をゴリ将軍に送る。それをアイが諫めた。


「マイ、あまり下々のものをイジメてはダメですよ。ゴリ将軍もちょうど説明するところだったはずです」


 御子は三つ子であった。総統の機嫌がよければ、アイと呼ばれる少女だけが現れる。だが、機嫌が悪ければ、もう一人、マイが現れるのだ。そして、さらに怒りに満ちていれば、三人目が現れるという。

 アイとマイがいることは良いことではないが、最悪ではない。


「それで、あなたたち、そのカオスイレギュラーズとやら、どう対処するというの?

 軍勢はすでに各国に差し向けているし、北海道で壊滅した師団もまるまる消えているのでしょう。余裕なんてどこにあるのよ」


 マイが不快そうに声を荒げた。それに答えたのは、カセイ参謀長である。カセイ参謀長は東アジア方面の作戦を一手に担っていた。


「そのことなら、私に考えがございます」


 カセイ参謀長は耳に赤い星のピアスを揺らし、顔には火星の地表を模したタトゥーを入れている。髪を赤く染めており、赤いローブを纏っていた。その目は神経質なものを感じさせ、どこかゴリ将軍を見る目にコンプレックスを感じさせる。


 ゴリ将軍とカセイ参謀長は軍事学校では同期だった。成績はカセイ参謀長が抜きんでており、彼が首席で卒業している。その時点では優越感を得ていたのだろう。だが、軍隊に入ったゴリ将軍の活躍は目覚ましく、瞬く間に英雄として祭り上げられた。

 かつては自分が優勢だった。それが却って彼の劣等感を刺激するのだろう。彼自身もスピード出世を遂げながらも、常にゴリ将軍の下であることが我慢ならないのだった。


「兵士を無駄に消耗せず、確実な成果を挙げる策……と申しますか、技術があるのでございます。

 そうですよね、トケイ技官長」


 カセイ参謀長に振られ、トケイ技官長が話し始める。


「そうですとも。我ら技術官の力により、新たな戦術が実現したのです。これは実に画期的なものなんですよ。

 名付けて、戦力巨大化。これは異海将校アウターマンの生命活動停止に反応して、その細胞を肥大化させ、数十倍の体積を得ることができるのです。

 ふふふふ、これだけで制圧力は幾重にも跳ね上がることでしょう」


 トケイ技官長の甲高い声が響いた。

 その体にはいくつもの時計が意匠されており、その顔も針と数字が散りばめられている。


「初耳だな。だが、その成果、期待したいものだ」


 ゴリ将軍の能天気な笑い声が響いた。

 それを神経質な目でカセイ参謀長が睨むように眺める。そして、口を開いた。


「カオスイレギュラーの素性について、諜報部の成果がありますので、報告しましょう。ブラックとブルーについてはいまだ調査中ですが、残りの三人についてはある程度わかったことがありました。

 まず、最初に現れた灰色の戦士、グレーですが、これはもう一つの地球アナザーアースの盗賊です。現地で次元転換用の特殊装甲服スーツを盗み出し、彼を追う警邏けいらを巻いて、本来の地球オリジナルアースに逃げてきたようです。その地点が我らの侵攻を止めた千歳だったようで……」


 カセイ参謀長は苦々し気な表情を見せる。それは軍部の恥であった。

 ゴリ将軍は指でテーブルをつついて、その先を話すことを促す。


「そして、カオスレッドですが、どうも本来の地球オリジナルアースの民には救世主が存在するという認識があるようで、その救世主とやらがカオスレッドに当たるようです。

 どうにも不可解なことですが、何人を拷問しようとその答えが返ってきます。少なくとも、本来の地球オリジナルアースの民は彼を信じている、それは確かなことかと」


 ここまで自分でも疑問に思う情報を話していたのだろう。カセイ参謀長には苦悶の表情があった。

 だが、次の言葉は軽やかに語り始める。


「イエローイレギュラーについては、かなり正確な情報を得られました。イエローイレギュラーなる戦士は100万人の応募者から選ばれた精鋭だということです。一人を選んだわけではないらしく、各地に駐在しているようですが、先日現れたのは千歳支部の担当官のようです。つまり……」


 そこまで言うと、カセイ参謀長はゴリ将軍の顔色を窺った。

 ゴリ将軍も彼の言わんとすることを理解する。


「千歳支部の所在地はわかっているのだな。その地を襲えば、おのずとカオスイレギュラーズが現れるだろう。

 ならば、作戦の通達を行う。巨大戦力とする異海将校の目星も付いているのだろう。任せたぞ、カセイ参謀長」


 ゴリ将軍の檄が飛んだ。東アジア方面軍が再び動き始める。

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