人体改造

 彗佐せっさ拓磨たくまはアビ教官が私有する研究所ラボに来ていた。

 世界帝国の格差は大きい。拓磨のような一兵卒は洗脳され最低限の衣食住しか与えられないが、アビ教官のようなキャリア組はそれだけで財産を与えられた。奴隷を何人も従え、専用の施設をいくつも所有している。


 ただ、それ故に上層部はキャリア組の反乱を最も恐れているはずだ。

 監視が厳重につくはずだった。


「その辺りは上手くやっているのよぉ。監視者に私の手のものがいるから。

 ふふ、どうやっているかは聞かないでよね」


 アビ教官はそう囁くと妖艶な表情を見せ、ラバースーツのジッパーを少しだけ下ろす。胸の谷間が露わになった。

 拓磨はドキリとするが、生殖器はとうの昔に除去されている。反応しようにも反応のしようがない。


「意味のないことはやめてくれ。それで、ここで何をするつもりなんだ」


 手の平を広げ、目を背けながら、拓磨はアビ教官の行動を止めた。


「あら、残念。でも、これは無意味なことではないの。着替える必要があるのよ」


 そのまま、ジッパーを下げ、アビ教官は全裸になる。下着を何もつけていなかった。ロッカーから衣服を取り出すと、医療用の手術下着を身に着け、ガウン、帽子、マスクで身を纏う。


「あなたの腕を直すのよ。手術オペ室に入って」


 拓磨は案内されるままに、手術室に入った。利き腕に注射を打たれ、その感覚がマヒしていく。そして、手術台で横になった。

 意識ははっきりとしたまま、自分の腕が切られるのを見ていた。アビ教官は新しい腕を持ってくると、その人造骨格を拓磨本来の骨と嚙合わせる。その後、人工皮膚をコーティングしていった。


「これで完成。使い方を説明するとね、この腕は補助装置アタッチメントを切り替えて使うことができるの。ワイヤーだとかドリルだとか、作戦に応じたアタッチメントを使用することね。ただ、アタッチメントを追加したいなら、褒賞ボーナスを得て購入するか、異海将校アウターマンのDNAを入手する必要がある。その機会を逃さないことね」


 そして、拓磨の人工腕にさまざまな機械パーツを組み込んでいく。


「待ってくれ、俺は死んだ扱いじゃないのか? それに、褒賞を得ようにも藁兵ストローマンには給金なんてない」


 拓磨が言葉を差し挟む。アビ教官はにやりと微笑みながら、その疑問に答えた。


「私が報告すればすぐに軍務に復帰できるのよ。こんなこと初めてじゃないの。生き残った藁兵を探すのは私の役目でもある。だから、心配しなくてもいいけど、今まで通りでも嫌でしょう」


 そう言うと、アビ教官は強化アームにカートリッジを差し込んだ。これで手術は完了したことになる。


「とりあえず、念力砲サイコキネシスキャノン掘削甲ドリルガントレットを取り付けておくわ。役に立ててね」


 そこまで言うと、拓磨の肉体をアビ教官がねっとりと眺めた。


「もはや、あなたはもう、ただの藁兵ストローマンじゃない。いわば、藁兵+1ストローマンプラスいちね」


 それがどれだけの進歩なのか、よくわからない。とはいえ、一歩前進したと思っておこう。

 麻酔が利いていて、感覚はないが、腕を動かしてみると、ちゃんと動いた。


「ふふ、リハビリは必要ないみたいね。

 あなたは軍に戻る。でも、藁兵のままじゃ、あなたの目的は達成しない。まずは異海将校アウターマンを目指しなさい。異海将校は異能を得て、強靭な肉体を得た怪人。藁兵を率いて、作戦を実行する立場になる。世界帝国の軍事幹部や総統に牙を突き立てるなら、必須の立場よ」


 それは言われるまでもないことだった。しかし、言葉で言うほどに簡単ではない。

 藁兵+1ストローマンプラスいちとして、しっかりと目に見える形で手柄を立てなければ、取り立てられることはないだろう。上層部は完全に藁兵を侮っているのだ。


「それに、魚眼を付けているのね。調整しないと、実戦ではものにならないわ」


 アビ教官はさらなる手術を始めようとしていた。

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