縁を結ぶ(2)

 がらがらと、テラスへ通ずる扉が乱暴に開かれる。


(! お兄様──?)


 ようやくアクセルが助け船を出しに駆けつけたのだと、メロディアは小さな胸を期待で膨らませた。が、その淡い期待は容易く打ち砕かれてしまう。


「あらあらまあまあ」


 聞き覚えのあるうんざりした声。

 テラスに現れた招かれざる客人は、メロディアがよく知っている女性二人組だった。


「しばらく顔を見ないと思ったら。これどういう状況かしらね、レイ姉さん?」

「どうも何も見たまんまじゃないベルラ。メロディアの身に余るような、たいへんいやらしい逢瀬の最中ということよ」


  レイはあおいでいた扇子で口元を隠し、まじまじとスヴェンの顔を検分する。


「ふうん? ……お噂は伺っていたけど、あなたがねえ」

「え、ええと、あなたがたは?」

「あら失礼、申し遅れたわね。わたくしは公爵の第三の娘にして、この芋娘の姉に該当するレイ・ヘリッグよ」


 隠した口元を醜く歪ませている、レイの表情を見れば二人を茶化しに来たのだとすぐにわかった。

  いつものメロディアなら負けじとその場で追い返す言葉を連ねたかもしれない。今日ばかりは、意地汚い姉二人の登場が鬱陶しくありつつもむしろ好都合であった。


(ふん、良いところで出しゃばってきたわね。私と縁を結べばこの、いかにも面倒くさそうなお姉様たちもついてくると知れば、スヴェン様も勝手に身を引いてくださるわ)


 ベルラはつかつかと高いヒールをかき鳴らし、まだ腰掛けたままのスヴェンを見下ろす形でせせら笑う。


「ヴェール伯爵のご次男とお見受けします。ここは公爵の第五の娘ベルラが、あなた様のご多幸を願いまして非常に大事なことをお伝え申し上げますわ」

「は、はあ」

「うちのメロディアがあなた様の趣味として、お眼鏡にかなったというだけであれば是非とも仲良くしてもらいたいところですけれど……お話によれば、ご長男ではなくあなた様がヴェール領をお継ぎになるとのことで」


 わざとらしく眉を下げ、もったいぶった口調でベルラは続けた。


「本当によろしくて? その子……」


 どうせ、病的なまでの兄思いブラコンを指摘するつもりなのだとたかを括る。

 別に構わない。わたしがお兄様をお慕い申し上げているのは事実であり、隠し立てするつもりもその愛を曲げるつもりもないのだから。


(でも、スヴェン様のこのご様子では、お兄様を釣り合いに出したところであまり大きな意味が──)






「幼少の頃に、全身をつつかれて、どうにか助け出されたは良いものの本気で生死を彷徨ったことがありますのよ」


 流れていた時間が止まる。

 メロディアは反論の言葉が見つけられず、声がまったく出せない。


「それで、身体中の至るところにメスを入れられて。かろうじて顔のほうは治ったようですけれど、確か胴体にはいまだに傷が残っていたはず。いえ、単に傷が残っているだけというならまだしも、その時は外側だけでなく内側のほうまで手を入れてますから。医師には、もしかすれば未来ではと通達された娘なのです」

「…………え」

「その時はアクセルも一緒に外で遊んでいたのだし、義理とはいえ彼が妹から目を離さなければねえ……と今更ながら悔やまれますけれど。まあ、そちらはもう過ぎた話ですか。そのアクセルもなにを思ってか、わざわざ騎士の道を選んだようですからね」


 姉二人の青い瞳が怪しげに光る。

 スヴェンを試すような──いや、試さずとも確信に満ちた表情で物事の核に迫った。


「で。本当にその子を選ぶんですの?」

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