誰も望まない再会(2)
「駄目だグレンダ!!」
──グレンダが行動するよりも先に。
駆け寄るなり肩をぐっと掴んできたのはアルネだった。
「……っ、アルネ様!?」
「殺してはいけない。彼、きみの同胞なんだろう!?」
「はっ? ……そ、そんなことを考えている場合では──」
戦いの世界で、敵への情けも命取りとなる。
グレンダの意識が逸れた瞬間を見逃さなかったエリックが、突きつけられていた剣を腕ごと振り払う。
「──っ、セイディ!」
舌打ちしたグレンダの合図で、セイディはエリックへ照準を合わせた。
ガンッ!!
放った銃弾は、エリックが即座に足元から拾い上げた大剣で払い落とす。
一転して優位を失ったグレンダと、自力で窮地を抜けたエリックが再び剣を交えようとした時。
「
タバサの低い声が、双方の動きを止めさせた。自分はすでに猟銃を下ろしていて、グレンダだけでなくセイディも怪訝そうにタバサを見据える。
「愚かな優男に救われたなエリック。せっかく生き永らえた命だ、一旦ここいらで打ち止めとしよう」
「いんやまだ油断ならねえ。ちっとも生きた心地がしませんわ」
エリックはタバサを一瞥することさえないまま、
「あの女のおっかなさはよぉく知ってる。ただ剣が強いんじゃねえ。話も常識もまるで通用しない。騎士なんてお綺麗なもんじゃなく、そこらの獣となんも変わりない凶暴な奴です!」
「そんなに私を高く買ってくれていたの? 光栄ね」
「だぁから褒めてねえんだよ!? 俺の話を都合よく捻じ曲げすぎだろ!?」
「……ふ。はは、あっはははははははは!!」
吠えるエリックにタバサは吹き出した。
ぽとりと口から落ちた煙草を、革靴でジュウと踏みつける。
「私の勘が当たったな、エリック。やはり女に飼い慣らされていたか」
「んんっ! ぐ……だ、から、タバサ嬢、俺は違いますって……」
「まぁ話はおおかた理解した。争うことはいつでも出来る。が、一度くたばった死人とは決して口を利けない」
親指を立てたタバサが、指したのは先ほど自ら大鹿を仕留めた方角だ。
「アルネ公子と……なかなか良い面構えをした女騎士。あちらに私たちが日頃から使っている空き小屋がある。どうだ? 一度話し合い、もとい腹の探り合いでも」
「そのような戯れ言が信用できるとお思いで?」
アルネがなにか答えるよりも先にグレンダが睨みを効かせれば、タバサはいっそうグレンダを気に入ったような素振りで。
「見ての通り、私の連れはこの森中ではこいつだけだ。貴様らが危惧しているのは町への通報だろう? まずはあれを小屋まで運ぶのを手伝え。商会へはもう持ち込まん、この場で捌いていく。それなら問題あるまい?」
「ええ、人手を呼ばないんですか!?」
不平を垂れたのはエリックだった。少し背中を曲げ面子を見比べながら、
「運ぶってあんた……女に女、後はいかにも貧弱そうな男しかいませんが?」
「ひ、貧弱……」
「誰があのデカブツを運んで捌くって?」
アルネに精神的苦痛を浴びせたかと思えば、
「貴様に決まっているだろう。わかりきったことをほざくな」
「ひえぇっ!?
「口答えするな、下僕風情が」
今度はエリックがタバサによって肉体的苦痛を受ける。
尻を思い切り蹴り上げられ、その場でのたうち回っているエリックをタバサは見下ろした。
「さっさとやれ。うかうかしていると、せっかく仕留めた獲物が腐るか他の獣に横取りされるではないか」
「ひっでえ……ひでえよ俺の人生……どこへ行ってもこんな目ばっか……」
哀れな男たちが被った負の連鎖を目の当たりにし、セイディは終始構えていた銃を下ろし脱力してしまう。
「グレンダ様。……ねえグレンダ様」
「……なに?」
「とりあえず、一時休戦で良いんじゃないですか?」
苦笑を浮かべながら提案するセイディに、グレンダは深い深いため息を吐く。
ことごとく間の悪いアルネや、騎士学校時代とあまり変わりない様子のエリックを眺めていたせいで、戦意を削がれてしまったのはグレンダも同じだった。
こうして十日間ほど半島を南北に渡っていたアルネ一行は、想定しうる限り最悪の形で、タバサにエリックという少なからぬ縁を持つ者たちと再会を果たしてしまったのである。
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