第9話 ヒタカズヒ

 あれから数年が経った。


 一飛と飛貴が帰った頃には悉く怒られ、警察からの補導もあった。無免許で運転したのだから、あたりまえだ。しかし、怒られている時も、学校でも、ずっと飛貴の頭を埋め尽くしていたのは、惑星難民プラネットレフュジーのアドルフやルシア、リタたちの姿だった。


 俗に富裕層と呼ばれる人たちの繁栄のために、後に惑星難民プラネットレフュジーとなる人たちが虐げられ、どんどん貧しくなっていく。その事実を考えれば考えるほどに、飛貴の心を痛くひどく締め付けた。


 そう思っていたのは飛貴だけではなく、一飛もだった。飛貴と一飛はほとんど毎日アイデアをノートにまとめ、スペースネットで検索し、学校でも協力を呼びかけた。


 そんな日々はもうすぐ―いや、今終わりを迎える。


 学校の中庭に群集が押し寄せている。群集の目の前にはステージがある。そう。飛貴の卒業式だ。


 もうとっくに一飛は卒業している。しかし一飛は飛貴が卒業するのを待っていた。


 あの日、二人がR-209からK-821に戻る時、二人は非営利団体でも会社でも、二人で惑星難民プラネットレフュジーを救済する団体を立ち上げようと約束したのだ。


「今から、僕の夢を発表します。」


 ステージに飛貴が立つ。飛貴が通っていた地球立大宇宙おおぞら学園では、毎年卒業式に卒業生で最も成績の良かった三人がスピーチをすることになっている。その中でも飛貴は学年で最も良い成績をとり、スピーチをすることになったのだ。学校としてはスピーチのテーマは決まっていない。そのため、その人の性格が出てくる。


 飛貴の学友は全員賢いことを言うだろうと予想した。しかし、飛貴が話した内容は、彼らの予想とは違った。


「僕は今、皆さんの前に立って話しているわけですが、僕は今から他の方とは違い、賢明な武勇伝ではなく、武勇伝とは言えないような体験談を話そうと思います。


 知っている方もおられると思いますが、僕が中学二年生の時、僕と兄は勝手に宇宙船を操縦し、以前僕たちが住んでいたR-209へ戻ったことがあります。今思えばとても馬鹿なことをしたと思いますが、当時僕は教科書を学校に持っていけない方が危機的状況にあると感じたのです。


 免許を持っていないどころか、未成年が宇宙船を操縦して、いいことなどありません。兄は背筋を負傷しましたし、最終的には目標の星に墜落しました。


 僕が今住んでいるK-821に移ったのは惑星難民プラネットレフュジー星盗賊スターギャンググループ、CoAの襲撃に遭ったからです。そのためR-209は、CoAの拠点となり、僕らが墜落した時も、すぐに数名の武装した男女が僕らを取り囲みました。殺されると思いましたが、事情を説明すると、すぐに武装解除し、壊れていた宇宙船も直してもらい、なぜか仲良くなりました。


 一日もありませんでしたが、僕と兄は俗に富裕層と呼ばれる僕らと惑星難民プラネットレフュジーの異なる点は、お金を持っているか、いないか、ということだけなんだと言うことに気がつきました。何に美しいと感じるか。何を失って悲しむか。何を大事に思い、何に心を動かされるか。それらは少しの差はあっても誰しも基本的には同じものが思い浮かぶと思います。それは彼らも同じです。僕らと彼らは、同じ人間という種族です。年齢、性別が違っても。肌の色や価値観が違っても。必ずしも一方が正しくてもう片方は全く間違っているわけではない。それを僕は痛感しました。


 僕は帰っている時に兄と惑星難民プラネットレフュジー問題について話し合いました。その話は、非営利団体を作り惑星主プラネットマスターになればいいということに話が落ち着き、その日以来僕と兄は一生懸命勉強し、惑星主プラネットマスターになろうとしました。そして今日、ついにその時が来ました。僕は大宇宙おおぞら学園を卒業し、惑星難民プラネットレフュジー救済非営利団体、ヒタカズヒ・・・・・を設立します。僕と兄の活動を手伝ってくれたり、支援してくれる人は後で話していただけると嬉しいです。」


 一斉に拍手が巻き起こった。飛貴の顔に笑みが浮かんだ。ほくそ笑みではない。苦笑いでも、嘲笑でもなかった。自分の考えがこの場で正しいと確証を得て、やっと夢が叶うという確信が笑顔の奥に見えた。



「飛貴! ヒタカズヒ、どう?」


 一人の女子高生―― 鷹鳴たかなき一葉かずはが飛貴に声をかけた。


「んー、まぁまぁかな!」


 飛貴の弱気な発言に二人は苦笑した。一葉はヒタカズヒの活動を初期から応援していた飛貴のクラスメイトだ。


「これから団体を立ち上げるならいろいろ手続きいるし…きついな」


 飛貴はまた苦笑して視線を落とした。実際、不安だった。


「飛貴ー、帰れるかー。あ、一葉、古賀せんが呼んでたぞ」


 一飛が二人の間に入ってくる。飛貴の担任の愛称、古賀せんなんて響きも、もう聞かないだろう。

 一飛はもうあの事件の時とは違い、運転免許を取った。(試験はギリギリ合格だったが)大宇宙おおぞら学園と各拠点星ベーススターの間の送迎もしている。自身の成績は悪かったものの、飛貴の勉強を手伝ったり、ザ・兄みたいな生活。以前より一飛は明るくなったようだ。


 バス船の深いエンジン音が鳴る。大宇宙おおぞら学園の卒業生がぞろぞろと乗り込み、拠点星ベーススターへの送迎船の出発を待つ。バス船の中はわ

いわいしていた。


「おーい、みんな、一回静かにしてくれ」


 男の声がする。飛貴の担任であり、学年主任の古賀隆義たかよしだ。


「みんな、本当にありがとう。君たちに会えて僕ら教師陣は幸せです。」


 たった数秒の言葉だけで、一気にバス船の空間にしんみりとした空気と沈黙が立ち込める。



「これにて、大宇宙おおぞら学園第28期生、解散!!!!」



作者のコメント

 ほんまにすいやせん!

 夏休みで忘れてたんです…!

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星主 しらたまにく @shiratama29

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