第8話 R-209からの旅立ち

 一日は早い。部屋中がどっと沸いた、あの時がわずか一時間前のようにさえ思ってしまう。宙に釣り上げてられていたSKI704はすぐに修理され、エネルギーも満タンにしてもらった。


「…飛貴、一飛。本当に短いじゃったが、ありがとうな。」


「アドルフ、ありがとう。なんだか…」


 飛貴が続けようとした途端、アドルフも口を開いた。


「「会ったことがある気がする。」」


 二人は口を揃えて言った。周りにいた群衆からざわざわとざわめきが聞こえる。


「それ、俺も思った。」


 二人の間に一飛も割り込む。周囲はなんとも言えない空気に包まれた。暖かいような、懐かしいような。そんな空気だった。


 十数秒後、ルシアがゆっくりと歩いて飛貴の肩を叩いた。


「…飛貴、もう一生会えない気がする。けど、なんだか会える気もするんだよな。」


「…そうだね。ルシア、一日間、ありがと。」


 飛貴とルシアは拳でタッチした。静かな緊張感、というか、感動的な雰囲気が人々を包む。


「さっ、飛貴たち、早く行かないとお父さんお母さんに怒られるんじゃない?」


 リタが腕時計を見て言った。


「あ、別に急かしてるわけじゃないからね?」


 後から付け加えた理由に、群衆がまた沸いた。


「そうだね。行かなきゃ。」


 飛貴がSKI704に乗り込んだ。続いて、一飛も乗り込んだ。二人ともドアを閉めた——かと思ったら、もう一度扉が開いた。


「みなさん、短い間でしたが、お世話になりました。またどこかで会いましょう。」


 一飛がかしこまった別れの言葉を告げた。群衆からは、「かしこまるなよ」や「一飛兄ちゃん、また来てね〜!」などの言葉が帰ってきた。


 二人の目には、アドルフたちがいるところからは見えない程に抑えた涙が浮かんでいた。


 飛貴がエンジンを掛ける。一飛がドアを閉める。ゆっくりと機体は浮き上がり、遠のいていった。人々は手を振り、大声で別れの言葉を叫び続けた。その姿が見えなくなるまで。



 だんだんと重力を感じない程にR-209から離れるまで、二人は一言一句話さなかった。静かに口を開けて喋り出したのは、飛貴だった。


「ねぇ兄ちゃん、アドルフとかルシアたちを見てて、どう思った?」


 流暢ではない質問に、問いかけた飛貴自身も困惑していた。その質問を聞いた一飛はなおさらだ。困惑していたのか、ただ単に答えないだけなのか、一飛は黙っていた。


惑星難民プラネットレフュジーのために、何かできないかな。あんな小さな惑星にあの人数が住むのと、僕らが今向かってる惑星に僕ら四人と一匹じゃ、あまりに不公平じゃない?」


 飛貴の筋の通った話を聞いた一飛も同じことを思ったのか、表情が変わった。


「俺も同じこと思った。」


 一飛が口を開いた。


「俺らが快適な生活を送るために犠牲になる人が出るのは嫌だよな。どうせなら反転した方が今までの償いはできる。」


「…惑星主プラネットマスター。」


「…え?」


惑星主プラネットマスターになれば、惑星難民プラネットレフュジーの団地みたいなのが作れるんじゃない?」


「でも…惑星主プラネットマスターになるのはかなりお金とかめんどくさいことになるぞ?」


「それでルシアたちが助かるならいいんじゃない?」


 飛貴の—最後はどうかわからないが—道理のある話の圧に押されたのか、一飛は納得した様子だった。


 K-821に着くまで、飛貴はやるべきことがあると目を輝かせていた。




 半日前。


 赤と青の光がちらつく。数機の警察の宇宙船が着陸し、その星は騒然としている。


「はい。そうです。はい。」


 涙ながらに警察の質問に答えるのは、彩野だった。


「静かだなと思って外に出てみると、宇宙船と息子たちがいなくなってて…」


 不安そうな顔で辺りを見回していた雄大が、彩野に声をかけた。


「彩野、バッテリー残量がどれくらい残ってたか覚えてるか?」


「いや…でも少なかった気がする…」


 二人は顔を見合わせ、より一層悲しみに暮れた。


 突然、警察機内の無線機が鳴った。警察官の一人が無線機のイヤホンを耳につけ、雑音の混じる連絡を聞いた。


「A-108。了解。」


 イヤホンを耳から外し、警察官が雄大と彩野に駆け寄ってきた。


「太陽系第三惑星、R系にて、SKI704の目撃情報があったとのことです。」


「まさか…あいつら…」


 雄大の頭に一飛と飛貴の会話が浮かぶ。


『教科書忘れちゃった…』


『取りに行けば?』


 雄大の顔に焦燥に駆られた表情が浮かぶ。それを見た警察官は何を悟ったのか、機内に戻り無線機を手に取った。


「息子たちはもしかするとR-209に戻ったかも…」


 その言葉を聞いて警察官はやっぱりとでもいうように無線機の向こうに状況を伝えた。


 警察機の数機は、エンジンをかけ、もうかなり昇った朝日の浮かぶ空へと消えていった。



 捜索は続き、太陽は傾いた。K-821に着陸している数少ない警察機の一つの無線機に通信が入った。


「R-210付近で、SKI704を目撃。追跡開始。」


「やっぱりそうだ。あいつら教科書とかをとりに…」


 雄大が唇をかみしめ、空を仰いだ。


「でも、今生きてるからいいじゃない。」


 もうすでに泣き止んだ彩野が雄大に話しかける。


 空を仰いでいる雄大が呟いた。


「生きて帰ってこいよ。一飛。飛貴。」



作者のコメント

 間に合わなかったよ…泣

 元々10万字以内だと思ってたから全然無理だったわ泣

 後はPVとかで金稼ぐか…泣

 パソコン欲しい(欲望)

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